NECは、新事業の開発に特化した新会社「NEC X」を7月2日に米国シリコンバレー(カリフォルニア州サンタクララ)に設立した。同社研究所の技術・人材とシリコンバレーの強力なビジネスエコシステムを組み合わせ、新事業の開発を加速させる狙いだ。藤川修・執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当が最高経営責任者(CEO)に、PG・マドハヴァン・ビジネスイノベーションユニットエグゼクティブ・データ・エバンジェリストが新規事業開発リーダーに就任する。(山下彰子)

“自慢の技術”をシリコンバレーのエコシステムで事業化


シリコンバレー拠点は他の日本企業と真逆の位置づけ

 「NEC X」は、NECの研究所がもつAIなどの先端技術や技術者を核に、シリコンバレーの起業家や投資家を加え、エコシステムを活用したオープンイノベーションによる事業化を推進する。事業創出を支援する「アクセラレーター(ベンチャー企業に出資・投資する企業・団体)」などの協力も外部から受け入れる。

 シリコンバレーに拠点を置く日本企業は珍しくないが、NEC Xの差異化ポイントについて、藤川執行役員は、「NEC Xのビジネスモデルは、通常の日本企業のシリコンバレー拠点とは逆。新しい技術をシリコンバレーで探すのではなく、NECが研究所で開発した技術をシリコンバレーに持ち寄り、それを使って事業を展開する起業家やスタートアップ、さらにはアクセラレーター、ベンチャーキャピタルを募る」と説明した。つまり、NECが開発した技術を、NECの外で事業化する方針だ。

 アクセラレーター、ベンチャーキャピタルなどのNEC以外のエッセンスを加えることについてPG・マドハヴァン・エバンジェリストは、「溶鉱炉のようにさまざまな要素を混ぜ合わせことで、合金のような強い企業をつくっていきたい」と話した。

 具体的には2018年7月から「NECアクセラレータープログラム」を開始する。起業家育成機関である米シンギュラリティ・ユニバーシティとともに、プログラムを構築・推進する。テーマ選定からアイデア創出、ビジネスモデル化、事業開発にいたるまで、最短1年で新規事業を立ち上げる計画だ。すでに6社がプログラムに参画し、三つのプロジェクトが進行中だというが、すべてのプロジェクトを事業化する前提で進めているわけではなく、「1年目は六つくらいのプロジェクトを走らせ、そのうち少なくとも一つは事業化し、起業までつなげたい」と藤川執行役員は語る。

 このプロジェクトの狙いは、ベンチャー企業を生み出すことではなく、生まれた事業をNECの既存事業と連携させ、既存事業を強化すること、NECの新たな柱となる事業を創出することだ。そのため、事業化・起業した後は、「NECが買い戻すのが基本だ」と藤川執行役員は話す。ただし、NECとのシナジーや生み出した事業価値を最大化すべく、買い戻さずNECが株を保有したり、知財をNEC側に残してライセンスするなど、柔軟に判断していく。場合によっては「事業を売却することもある」(藤川執行役員)といい、手に入れた資金を次の事業化の投資に回す。

 NEC Xは、支援して生み出した事業会社の企業価値の合計値を22年までに1000億円以上にすることを目標に掲げている。

 なお、今年4月、NECが同じくシリコンバレーに設立したAI新会社「dotData」は、日本での独占販売権をNECが持ち、グローバルではオープンに展開する方針を取ったが、NEC Xから創出されるスタートアップでは同じようなケースになることは少ない見込みだ。

競争力強化にはスピードアップが必要

 NEC本体にも研究・開発機関がある。なぜ、シリコンバレーに新規事業開発機関を設けたか。NECは他社と差異化できるユニークな技術を持っていても、その事業化に時間がかかってしまっていた。グローバルで勝負をするには、スピードが遅いという課題を抱えていた。

 16年度~18年度の「2018中期経営計画」には、赤字事業の縮小などの構造改革とともに、成長軌道に回帰するための新規事業の立ち上げ、海外向け事業の立ち上げを盛り込んでいたが、立ち上がりが遅れ、結果として中期経営計画は見直しを余儀なくされた。それを踏まえて18年1月に発表した「2020中期経営計画」では、オープンイノベーションにより事業開発力を強化する方針を盛り込んだ。NEC1社では、グローバルの競争に勝ち抜くことができないという判断からだ。
 
左から藤川修・執行役員ビジネスイノベーションユニット担当、
PG・マドハヴァン・ビジネスイノベーションユニット
エグゼクティブ・データ・エバンジェリスト、
西原基夫・執行役員中央研究所担当

 いくらNECに基礎技術の開発力があったとしても、事業化のスピードという観点ではエンタープライズIT市場の世界標準からは程遠い状況だ。NECの研究所などで開発した技術は、NEC内部での事業化が前提だったからだ。藤川執行役員は「技術自体はグローバル企業と比べて遜色がない。しかし、事業化に3~4年ほどの時間がかかり、事業化した時には競争力がなくなるケースが多かった」と、事業化に時間がかかっていたことが、グローバルでの競争に勝てなかった要因だと分析している。

 同様のことを西原基夫・執行役員中央研究所担当も指摘しており、「どんなにすぐれて独創的なアイデア、技術でも2年以内に事業化しなければ陳腐化してしまう」と語る。今回の新会社の設立は、事業化のスピードを加速させることが第一の目的だ。そのために、1年で事業化・起業するという目標を設けた。

 NEC Xがこの目標をクリアできるか。また、新規事業が立ち上がった時、既存事業とのシナジーを生むことができるか。NECが注力するこのプロジェクトの成功には、既存事業のさらなる構造改革とスピード感の向上も不可欠だ。