AWS追撃の切り札になるか──。日本マイクロソフト(平野拓也社長)は「Microsoft Azure」のシェア拡大に向け、2020年にサポート終了を控える「Windows Server 2008」のマイグレーション需要を最大限活用する。オンプレミスで利用されているWindows Server 2008インストールマシンからAzureへの移行を促すべく、戦略パートナー57社と共同でWindows Server 2008ユーザーの最新インフラへの移行をサポートする体制を構築する。さらに、Azure上で稼働させる場合に限って、Windows Server 2008の延長セキュリティ更新プログラムを3年間無料で提供するという。Azureへの動線を強化し、AWSに対抗する姿勢がますます鮮明になってきている。(本多和幸)
Windows ServerのEOSでAzure移行への動線強化
2020年1月に「Windows 7」のサポート提供が終了することで、PCや業務アプリケーション市場ではOSのマイグレーションに伴う需要の盛り上がりが予測される。ただし、近くサポート終了(EOS)を迎えるマイクロソフト製品はWindows 7だけではない。Windows Server 2008も同じく2020年1月にサポート提供が終了する予定で、エンタープライズIT市場に及ぼす影響はやはり大きい。
MM総研の調査では、国内で稼働中のWindows Server 2008インストールマシンは2018年8月時点で約54万台にのぼる。日本マイクロソフトはEOSの期限である2020年1月までに、この54万台のサーバーすべてを最新環境に移行することを目指すという。そのための施策として同社は、戦略パートナー57社と連携し、顧客ごとの課題に合わせた適切なマイグレーションを支援する「マイクロソフトサーバー移行支援センター」を設立した。
マイクロソフトサーバー移行支援センターは、日本マイクロソフトが窓口を用意し、Windows Server 2008から最新インフラへの移行に必要な各種のアセスメントサービスや実際の移行支援サービスを同社と戦略パートナーの協業により提供していく。また、19年6月末までに移行技術者を4000人育成するほか、全国で240回、7000人規模の移行支援セミナー「Azure Migration Roadshow」を開催する計画だ。
Azure利用なら延長セキュリティ更新プログラムが無料
日本マイクロソフトによれば、仮にこうした対策を取らなかった場合、Windows Server 2008のEOS時点で約32万5000台のサーバーがサポート切れの状態のまま残存し、その後も最新環境への移行は急激には進まないと予測しているという(グラフ参照)。また、Windows Server 2008インストールマシンの現状の用途としては、25%がファイルサーバー、52%がLoBアプリケーション(業務アプリケーションのウェブサーバー、データベース、アプリケーションサーバー用途)、14%がメールやActive Directory、9%が組み込み系だ。同社の浅野智・業務執行役員クラウド&エンタープライズ本部本部長は、「ファイルサーバーは移行しやすいが、対策が必要なのがLoBアプリの移行だ」として、一連の施策の主眼が業務アプリケーションのインフラ移行にあり、同社やパートナーにとってのビジネスチャンスも大きいことを示唆する。
日本マイクロソフトはWindows Server 2008環境を最新インフラに移行するための具体的な方法として、三つのシナリオを用意している。一つはオンプレミス環境をそのまま最新のWindows Serverにアップグレードする方法、二つめはオンプレミスのWindows Server 2008環境をAzureにリフト&シフトした後に最新インフラに移行する方法、そして三つめが、AzureのPaaSを活用して一気に業務アプリケーションのリファクタリング(再設計)をしてしまうという方法だ。同社は今回、前者二つのシナリオを選んだユーザー向けに、Windows Server 2008環境をサポート終了までに最新環境に移行できなかった場合でも、「延長セキュリティ更新プログラム」を提供することを発表した。このプログラムはWindows Server 2008のサポート終了から3年間にわたって提供される予定で、その猶予期間でユーザーにインフラ移行とそれに伴うアプリケーション改修などの計画を策定・実行してもらいたいという意図がある。
ただし延長セキュリティ更新プログラムは、Azureへのリフト&シフトを選択すれば無料で使うことができるが、オンプレミスで利用する場合は有償で、大規模ユーザー向けのボリュームライセンス契約が必要になるうえ、追加の保守料を支払う必要がある。なお、2019年7月にサポート提供が終了するSQL Server 2008についても、同様の基準で延長セキュリティ更新プログラムが提供される。
また、PaaSを活用したリファクタリングでは、クラウド移行を支援する制度である「Azureハイブリッド特典」が利用可能で、移行コストを最大で55%削減できる可能性があるという。
Windows Server 2008 EOSでさらに激化するAWSとの競争
今回発表された日本マイクロソフトのWindows Server 2008環境の移行支援策は、主にコスト面で、オンプレミスユーザーをAzureに誘導する動線を大幅に強化した印象だ。まずはWindows Server 2008とSQL Server 2008の延長セキュリティ更新プログラムを無償で利用できるというメリットを武器にAzureへの再ホストを促し、その次の段階でPaaSを活用したリファクタリングに移行してもらい、Azureの顧客基盤を着実に拡大させたいという意図が感じられる。同社の高橋美波・執行役員常務パートナー事業本部長は「EOSの危機感を煽るというよりも、お客様のデジタルトランスフォーメーションを進めていくためには最新インフラへの移行を促進することが重要であることを強調したい」とコメントしている。
一方で、先行するAWSに対する強い対抗心も感じさせる。AWSも、Windows Server 2008のサポート終了を見据え、マイクロソフト製品のAWS上での稼働を促進すべくパートナープログラムをアップデートしている。AWSのサービスを活用する能力を認定するパートナープログラムである「サービスデリバリープログラム」の対象サービスに「Amazon EC2 for Windows Server」を追加したのだ。この動きが日本マイクロソフト側を刺激したことは想像に難くない。富士ソフト、日本ビジネスシステムズの2社がすでにこの認定を取得しているが、日本マイクロソフトが一連の移行支援策を発表した記者会見には、戦略パートナーの一社として富士ソフト、日本ビジネスシステムズとも出席した。57社という戦略パートナーの数も含め、AWSに一歩も引かないどころか、Windows Server 2008の移行ビジネスを機に国内クラウド市場の勢力図をひっくり返すための体制を整備したというメッセージが伝わってくる。「54万台すべての移行を支援できるキャパシティを用意できた」と話す高橋執行役員常務も、それを否定しない。
日本マイクロソフトは、2020年をめどに「パブリッククラウド市場でリーディングシェアを獲得する」「日本ナンバーワンクラウドベンダーになる」という目標を明確に掲げている。Windows Server 2008環境の移行状況のみが両者のビジネスにおける優劣を決める要素ではないにせよ、さらに拡大するクラウド市場におけるトップベンダー同士の競争はさらに激しさを増しそうだ。