富士通、NEC、日立製作所の上期(2018年4月~9月)決算が出そろった。各社ともIT事業ではシステム構築サービスを軸に収益性を高める戦略を描くが、日立が利益を積み上げる一方、不振が続いていたNECはようやく海外事業での止血にめどがついた段階。富士通はコモディティ事業の整理が一段落するも、海外売上目標の撤回や大規模な人材の配置転換を発表するなど、改革の青写真と現実の隔たりを感じさせる内容となっている。(日高 彰、山下彰子、安藤章司)
「2022年度までのKPIから、いったん『海外売上比率50%』を外す。売上規模を追うのではなく、さらなる価値提供を目指し、強固な収益体質を築くことを優先する」
10月26日、富士通の田中達也社長は決算説明会でこのように述べ、15年の社長就任時に宣言していた海外売上高に関する数値目標を撤回した。田中社長は「任期中に営業利益率10%以上の水準を達成」とかねて唱えていたが、実際には海外では「サービスに対してプロダクトの比率が高かった」(田中社長)。海外で短期的な成果を求めるほど、売り上げは拡大しても収益性は悪化する状況にあり、海外事業を伸ばしながら全体では利益水準も改善するという目論みは、二兎を同時に追う無理な戦略になっていた。
富士通の田中達也・代表取締役社長
同社全体の上期累計の売上高は1兆8345億円で、前年同期比4.6%減。営業利益は952億円で、前年同期から672億円アップしているが、このうち大部分は第1四半期に行った退職給付金制度の変更に伴う影響で、本業の利益は前年並み。法人向けPC販売や電子デバイスを除き、テクノロジーソリューション事業だけを取り出した営業利益率は3.4%だった。なお、ソリューション/SI部分の売上高は過去最高を更新している。
田中社長は新たな数値目標として、「22年度までに、テクノロジーソリューション事業で営業利益率10%の達成」を掲げた。改革を加速するため、取締役・執行役員を合わせて60人だった役員数を26人まで削減し、意思決定のスピードアップと責任の明確化を図るとともに、富士通マーケティングなど一部主要子会社の社長を本社役員が兼務し、グループガバナンスを強化する。これらの人事は通例の年度末を待たず、来年1月1日に前倒して実施する。
加えて、5000人規模の配置転換を行い、間接部門の人員を減らす代わりに、営業・SE・業務コンサルタントなどを拡充する。25年にSAP ERPの標準サポート終了が迫っていることから、基幹業務システムの刷新に対応できる人材を育成し、需要の取り込みを狙う。人的な経営資源のシフトを社内の異動だけでまかなうことは難しいため、社外からの採用と、現従業員の社外への転職支援を伴う改革となる。
海外事業については「不採算を抱えたプロダクト中心のビジネス拠点は、閉じていかないと将来の成長の芽をつんでしまう」(田中社長)と述べ、特にEMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)地域の拠点のうち、約半数を見直しの対象とする。不採算拠点を閉鎖し、顧客基盤が強い英国、ドイツなどに集中するかたちで、選択と集中を進める。また、ドイツ・アウグスブルグの工場を20年前半に閉鎖する。
さらに来年以降、通信事業者による5Gネットワーク構築への投資が本格化するが、田中社長は「通信と情報の融合が真の意味で実現し、多彩なビジネス機会が生まれる」と述べ、ネットワーク関連事業への期待を示すとともに、キャリア向け通信機器の世界的な大手であるエリクソンとの戦略提携を発表した。
富士通は長年NTTドコモに基地局設備を納入しているが、今後5Gの国内向け基地局をエリクソンと共同開発するほか、5Gネットワークの制御・管理機能の部分で、エリクソンの製品を富士通が取り扱い、国内キャリア向けにSIサービスを提供する予定だ。通信機器は富士通の「祖業」だが、田中社長は「かつてはハードウェアに依存していたが、1社でやる時代ではなく、他社のものもつなげていく」と話し、5Gの世界では自前主義・垂直統合型の事業モデルは成立しないと強調。エリクソンとの協業を足掛かりに、将来的には海外でも基地局やIoTソリューション展開を図りたいとした。
田中社長は第1四半期の決算発表の時と同様に、「“形”を変える取り組みは一区切りついた。これからは“質”を変えていく」と語った。今回、富士通が発表した改革は、過去数年にわたって行ってきた事業売却などとは異なり、事業の中身が改善されなければ成果は得られない。人的なリソースシフトには教育・研修の時間も要する。テクノロジーソリューション事業の営業利益率は、今年度通期で4%、19年度で5%を計画しており、改革の効果が鮮明に表れるのは20年度以降という見通しだ。一時期は射程距離に入ったかと思われていた「10%達成」の難しさが、改めて浮き彫りとなった。
NECは海外事業が改善、5Gでサムスンと協業
収益構造の立て直しと、成長軌道への回帰を盛り込んだものの、既存事業の想定以上の落ち込みにより、2016年度に策定した3カ年の中期経営計画をわずか1年で撤回したNEC。今年1月に発表した新中計では、テレコムキャリア事業の縮小、九つある工場の統廃合、小型蓄電事業からの撤退、そして国内8万人のグループ社員の約4%にあたる3000人の削減を決めた。人員削減のための特別転進支援施策(希望退職の募集)は、10月29日にいよいよ始まった。
NECの新野隆・代表取締役 執行役員社長兼CEO
こうしたなか、30日に発表した今年度上期の連結決算は、売上高が前年同期比3.8%増の1兆3364億円、営業利益が同90.1%増の138億円と増収増益だった。セグメント別では、パブリック事業とエンタープライズ事業の増収が貢献。また、グローバル事業は50億円の営業赤字となったものの、売上高は前年同期比0.6%増の2133億円、営業損失は前年同期から60億円改善した。
グローバル事業に関しては、今年4月から、製品分野別に分散していた事業責任と権限を集約する「ワンマネジメント体制」に変えて取り組んできた。特に収益性を第一に、利益率にこだわった案件の選別、機種の絞り込みなどを実施。新野隆社長は「この効果が表れてきている」「損益は計画通りに改善している」と話し、ようやく海外での止血にめどがついたもようだ。
もう一つのグローバル事業での強化ポイントが、サムスン電子とのグローバル市場向け5Gポートフォリオ拡大のための協業だ。5G標準に準拠した製品を共同で開発し、グローバル市場に展開。リーディングポジションの獲得、ソフトウェア、サービス領域への展開を狙う。パートナーシップ契約を取り交わしたとする発表は24日で、奇しくも富士通とエリクソンの協業発表の2日前だった。
富士通が国内向けにエリクソンの製品を導入するのに対し、NECは国内では従来のビジネスを継続する考えで、サムスンとの協業は主に海外を向いている。サムスンのキャリア向け事業の規模は、携帯基地局の3強とされるエリクソン、ファーウェイ、ノキアに比べると小さいが、新野社長は「サムスンは5Gの領域では、北米では一歩先行しており、インドでも大きなシェアを持っている。これを機にグローバルの販路を広げていく」と述べ、海外キャリア向け事業再拡大の糸口にする考えを示した。
ITプロダクト伸び悩むが、営業利益は改善の日立
日立製作所の情報・通信システム部門の上期売上高は、SIビジネスが牽引したものの、サーバーや通信機器などのITプラットフォーム製品の販売が伸び悩み、前年同期比3%増の9601億円だった。内訳は、セグメント間の取引を含んだ数値ベースで、SIを中心とするフロントビジネスセグメントが前年同期比5%増の6873億円、ハード販売などのITプラットフォーム&プロダクツセグメントが同1%減の3504億円にとどまった。
日立製作所の西山光秋・代表執行役執行役専務CFO
営業利益でみると、フロントビジネスが前年同期比1.7%増、ITプラットフォームが同2.1%増と伸びており、利益面で課題を抱えていたITプラットフォームも営業利益率8.9%と「改善している」(西山光秋専務)手応えを感じている。ハードウェア単体の販売での利益率は限られるものの、ユーザー企業の経営課題を解決するコンセプトであり、IoTプラットフォームでもある「Lumada(ルマーダ)」と組み合わせるなどして、営業利益率目標の10%達成を目指していく。
今年度通期の情報・通信システム部門の連結売上高は前年度と同じ2兆円の見込み。フロントビジネスは3%伸びるとの予想だが、ITプラットフォームが4%減となる見通しであることから、トータルでは前年並みを見込む。営業利益率はフロントビジネスが11%、ITプラットフォームが7.7%の見込みで、情報・通信システム部門全体では10%の着地を目指す。
ハードウェア販売に関連して日立製作所は、グループ傘下でカーナビメーカーのクラリオンの株式をフランスの自動車部品メーカーのフォルシアグループに売却。今年度をもって連結子会社から外れる見込み。クラリオンは一部ADAS(先進運転支援システム)など、今後伸びが見込まれる事業も手掛けているが、売り上げの多くは「コモディティー化が著しいカーナビが占める」(西山専務)ことから、21年度までの次期中期経営計画で掲げる営業利益率10%の達成は難しいと判断したもようだ。
また、上期の全社Lumada事業は、顧客データを分析して価値に変換し、顧客の売り上げや利益を伸ばす「Lumadaコア事業」が前年同期比52%増の1310億円、関連するSIビジネスの「Lumada SI事業」が同1%増の3690億円だった。今年度の見通しは、Lumadaコア事業が前年度比35%増、Lumada SI事業が同2%減で、トータルでは同6%増の1兆700億円を見込んでいる。