米マイクロソフトを率いるサティア・ナデラCEOが来日した。日本のユーザー企業の経営層やパートナーに対して訴えたのは、「テック・インテンシティー(テクノロジーに対する強度)こそが、デジタルトランスフォーメーションの時代に生き残るために必須の要素である」ということ。そして、マイクロソフトこそがテック・インテンシティーを支えるソリューションのトップベンダーであることを強くアピールした。(本多和幸)
「トラスト」の価値を問う
ナデラCEOは、日本マイクロソフトが11月5日から7日まで都内で開催した「Microsoft Tech Summit 2018」(「Business Leaders Summit」も併催)に合わせて来日し、5日の基調講演に登壇した。冒頭、ナデラCEOが指摘したのはテック・インテンシティーの重要性だ。「テック・インテンシティーとは、ワールドクラスの優れたテクノロジーをどのくらいのスピードで導入するかという要素と、テクノロジーをどのように生かして差別化を図るかという能力の掛け合わせで構築される」という。マイクロソフトは「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションを掲げているが、ナデラCEOは、「テック・インテンシティーこそがマイクロソフトのミッションを実現するための基礎になる」と強調する。
そして、テック・インテンシティーの「テック」(=テクノロジー)は近い将来、クラウドとローカルデバイス(エッジ)の両方にAIによるインテリジェンスを持たせる「インテリジェント・クラウドとインテリジェント・エッジ」に進化の方向性が集約されていくという。ここ2年ほどでマイクロソフトが繰り返し発信してきたメッセージを改めておさらいしたかたちだが、ナデラCEOはこれを踏まえ、インテリジェント・クラウド、インテリジェント・エッジの両面でマイクロソフトがソリューションを日々進化させていることを説明した。
近い将来、日本の2リージョンは容量を2倍に
ナデラCEOが「世界のコンピューターとして構築している」というMicrosoft Azureについては、現在グローバルで54リージョンに展開。それぞれのリージョンでは、データセンター(DC)の地理的冗長性を持たせたかたちでインフラを構成している。DCは各地で随時拡張を続けているというが、日本への設備投資についても言及。「日本は東日本と西日本の2リージョンがあるが、このキャパシティを近く2倍にする」と宣言した。
また、Azureの機能をオンプレミスでも使うことができ、シームレスなハイブリッドクラウドを実現する「Azure Stack」、エッジデバイスに組み込んだマイクロコントローラーのセキュアな管理を実現する「Azure Sphere」など、インテリジェント・クラウドを支えるAzureとインテリジェント・エッジを融合させるためのソリューション開発に注力していることも紹介した。さらには、AIへの注力についてもアピールし、誰でもAIを利用できる「AIの民主化」を実現すべく、具体的なプロダクトの研究開発や社内実践の事例づくりなどに多額の投資を行っていることを紹介した。
一方で、テック・インテンシティーを高めるための前提として、テクノロジーの導入には「トラスト(信頼)」が必要不可欠であることをナデラCEOが繰り返し訴えたのも印象的だった。先進テクノロジーを活用して包括的なソリューションを提供すると同時に、トラストを担保していることこそがマイクロソフトの価値の基盤であり競争力の源泉であるという強い自負を感じさせた。ナデラCEOは、「(ITのユーザー企業は)技術の発展がもたらす予期しない問題、具体的には『プライバシー』『セキュリティー』『AIと倫理』の三つに責任を持ち、トラストを実現しなければならない」と訴えた。
ナデラCEOに続いて基調講演に登壇した米マイクロソフトのノーム・ジュダ・エンタープライズCTOや日本マイクロソフトの伊藤かつら・執行役員常務デジタルトランスフォーメーション事業本部長も、「AI開発にあたって人間の創造性を高める責任あるAIにフォーカスしている」「マイクロソフトはお客様が資産として保有するデータを自分たちのビジネスには使わない」とコメントし、トラストという価値観をマイクロソフトがとりわけ重要視していることをうかがわせた。