今年9月、マイクロソフトはAzure上で動作するDaaS（Desktop as a Service）の「Windows Virtual Desktop」を発表した。“マイクロソフト純正”ともいえるDaaSの登場は、既存のデスクトップ仮想化基盤（VDI）ベンダーにとって大きな脅威になり得る。しかし、シンクライアント／VDIソリューション大手、シトリックス・システムズ日本法人の青葉雅和社長はこの見方を否定。企業ごとに異なる要件への対応では同社製品に優位性があることに加え、今後はモバイル端末も含めた業務環境の統合にも取り組むことで、ビジネスを大きく拡大できるという。（日高 彰）

国内売り上げは前年比15％増

　働き方改革の機運で、VDI市場が拡大を続けている。また、AWSが2013年から「Amazon WorkSpaces」の名称でDaaSを展開しているほか、国内のITベンダー各社も自社のデータセンターを基盤としたDaaSを提供している。すでに数多くのサービスが存在するが、マイクロソフト自身がいよいよ重い腰を上げ、Azure上からWindows 7および10の仮想デスクトップを提供する、Windows Virtual Desktopを発表した。

　このサービスがマイクロソフトの純正品であること以外の最大の特徴は、「Microsoft 365」の上位プランのユーザーに対しては、無償で提供されるという方針が示されていることだ。現時点ではプレビュー提供の段階だが、本格普及すれば、VDIベンダーやDaaS事業者のビジネスをごっそり侵食することになりかねない。

　しかしシトリックスでは、現在のところそのような懸念は抱いていないとしている。特に同社が主要顧客としている大手から中堅規模の企業においては、既存システムの構成や運用ポリシーとの整合など、顧客ごとに複雑な要件があるため、画一的に提供されるクラウドサービスをそのまま適用するのは難しいケースが多いという。一方、今回のWindows Virtual Desktopが無償で利用できるのは、大企業向けライセンスの「Microsoft 365 E3／E5／F1」が対象で、手軽に仮想デスクトップを導入したいという中小企業のニーズに応えることを目的としたものではない。
 
　青葉社長は取材に対し、「当社のソリューションと競合することはないのではないか。むしろ、マイクロソフトがDaaSの訴求を強化することで、金融、公共以外の業種でも仮想デスクトップ導入を改めて検討する動きが生まれ、マーケットを一緒に広げていけると考えている」とコメント。今年上半期の国内売り上げは前年比15％増と大きく伸びており、働き方改革需要は当面継続すると見込まれることから、下半期以降もおおむね堅調な推移が期待できるという。
 

今後は生産性向上製品に投資

　業務システムのクラウド化が進んでいる現代からみると、デスクトップ上のレガシーアプリケーションを遠隔で操作するVDIは、過渡期のためのソリューションにみえる。
 
　だが、11月21日に来日したアジア太平洋・日本担当シニア・バイスプレジデントのコリン・ブルックス氏は、「新しいワークスタイルは古いITを置き換えたわけではなく、従来の資産は残り続ける。オンプレミスで動作しているアプリケーションの9割は、今から5年後も使われていると見込まれる」と指摘し、柔軟でセキュアなワークスタイルの実現にあたっては、クラウドとオンプレミスに分散するアプリケーションの複雑性を解消する仕組みが必ず求められると説明。同社が提案に注力している「Citrix Workspace」は、PCだけでなくスマートフォンやタブレットも含めて、アプリケーションと端末の管理を統一できるとアピールした。青葉社長も「VDI単体の市場の伸びは年一桁程度と見込んでいる」と話し、勢いを伴って成長する市場ではないことを認めるが、モバイル端末のサポートや、パートナー経由のDaaS提供の拡大で、ビジネス機会は広がる余地が大きいと強調する。

　また、シトリックスは11月15日、業務ポータル構築プラットフォームを手掛けるスタートアップの米Sapho（サフォ）を買収した。Saphoは、ユーザーに代わって業務アプリケーションにアクセスして情報を取得し、ダッシュボード画面への表示や、モバイル端末への通知を行うツールで、アプリケーション操作の利便性向上や業務フローの自動化などが可能。今後シトリックスでは、このような生産性を高めていくためのソリューションを強化していくという。