中小企業の業務効率化を強く後押しすることになるか――。中小企業庁は金融庁などの協力の下、中小企業の受発注電子商取引と電子決済を連携させ、売掛金消込などの経理業務を効率化する実証事業を行った。受注側・発注側の双方で、大きな業務時間削減効果が得られたという。関係者は「この成果を基に決済・商流情報連携の仕組みの普及を図ることで、日本の産業界を支える中小企業の抜本的な生産性向上、さらには日本のサプライチェーン全体の生産性向上を実現できる」と期待を寄せる。(本多和幸)
日本のサプライチェーン全体への波及効果も
この実証事業は、中小企業庁の2017年度補正予算事業である「中小企業・小規模事業者決済情報管理支援事業」として行われた。背景には、二つの環境が整ったことがある。
まず、中小企業庁は16年度事業で、「中小企業共通EDI」の仕様を策定した。中小企業共通EDI標準は、文字通り、企業の垣根を越えて受発注や請求業務など「商流工程」のデータ連携を実現するための共通仕様だ。大企業でこそEDIによる商流工程の自動化は進んでいるが、発注企業によって仕様はバラバラで、受注企業はさまざまなシステム・仕様に対応しなければならない。中小企業にとってその負担は大きく、いまだにファックスや電話で受発注業務などを行っているケースが大半だという。中小企業共通EDIは、こうした課題を解決することを意図している。また、EDIサービスプロバイダーや業務アプリベンダーのほか、IT業界団体などが「つなぐITコンソーシアム」を設立し、中小企業共通EDI標準の普及活動にも取り組んでいる。
さらに、決済事務の合理化に向けた新しい動きも現実になった。昨年12月、全国銀行協会(全銀協)と全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は、「全銀EDIシステム(ZEDI)」を稼働させた。従来、総合振込時には固定長電文で20桁のEDI情報しか付加できなかったが、ZEDIではXML電文を採用し、企業間の銀行送金に取引の明細や請求書などの情報を付加できるようになったため、売掛金の消込を大幅に効率化できる可能性がある。
このZEDIと中小企業共通EDIの登場により、両者を組み合わせ、中小企業の商流情報を決済情報に連携させる仕組みの構築が現実味を帯びてきた。今回の実証事業では、この仕組みを「決済商流情報連携基盤」と名付け、中小企業の決済効率化効果を探った。
発注側は平均55.6%
受注側も37.5%の削減効果
実証事業の事務局はNTTデータ経営研究所が務め、流通業、製造業、サービス業など複数の業種で効果を実証すべく、4プロジェクトを全国で実施。地元の中小企業やつなぐITコンソーシアムのメンバー企業などが参加した。
実証事業にあたっては、決済商流情報連携基盤の普及にもフォーカスした。中小企業共通EDI仕様とZEDIとの接続機能や、異なるEDI仕様との変換機能をサービスとして提供する「共同利用システム」をコンソーシアムのメンバーであるNTTデータが開発。事業としての実現性や有効性も実証した。EDIツールやEDIサービス、各種アプリケーションのベンダーが決済商流情報連携基盤のスキームに対応する際の開発負担を下げようという狙いだ。
結果として、発注側企業は平均55.6%、受注側企業でも37.5%の業務時間削減効果が確認されたという。特に決済業務については効果が大きく、受注側は売掛金の自動消込、発注側は商流情報の活用による振込明細の自動作成により大きく業務時間を削減でき、ともに50%以上の業務時間削減効果を記録した。
今後はこの実証結果を基に、中小企業庁、つなぐITコンソーシアム、金融庁、全銀協、全銀ネット、さらには中小企業共通EDIの普及に協力してきた日本商工会議所、ITコーディネータ協会など、関係者が連携して決済商流情報連携基盤の普及に取り組むという。一連の事業に参画し、このスキームを推進するキーマンとも言えるクラウドサービス推進機構の松島桂樹理事長は、「決済商流情報連携基盤が普及することは、大企業にとってもメリットが大きい。取引先の中小企業の受発注や決済が効率化されれば、サプライチェーン全体の効率化が進むからだ」と強調する。商工会議所などとの連携により、大企業にも普及への協力を働き掛けていく方針だ。