富士通は3月28日、グローバルデリバリーグループ長を務める時田隆仁氏を次期社長とする役員人事を発表した。SE出身で、入社以来一貫してシステム構築事業に携わってきた時田氏を抜擢することで、サービスへのシフトを加速する。企業のデジタル変革支援や、海外での提案力強化による成長を目指すが、これらの戦略は田中達也社長が掲げた方針と変わらない。若返りによって改革のスピードを速めることができるのか。(日高 彰)
田中達也社長(左)と時田隆仁副社長
金融の大型案件で豊富な経験
時田氏は1988年入社の56歳で、現在62歳の田中社長よりも6歳若いトップが誕生する。SEとして大手生命保険会社の業務システムなどを担当。2005年からはメガバンクの勘定系システム刷新など銀行向けの大型プロジェクトを主導し、14年に金融システム事業本部長に就任。同社SI部門の中でも中核的な金融向け事業に長らく携わってきた。直近の17年以降は、海外でアプリケーション開発やサポートなどのサービスを提供する「グローバルデリバリーグループ」を担当し、英ロンドンに赴任していた。今年1月に専務に就任していたが、3月28日付で副社長に昇格しており、6月24日に開催する定時株主総会の決議を経て正式に社長に就任する。
田中社長は15年6月の就任時、グローバル競争に勝ち抜くために必要な業績水準として「在任期間中に営業利益率10%以上」を掲げ、SI事業への集中を進めてきたが、17年度決算では営業利益率4.5%、18年度見通しでは同3.6%と、収益性の改善に苦戦。昨年10月には経営目標を変更し、PC販売などを除く「テクノロジーソリューション事業」で22年度に営業利益率10%を目指すとしていた。同時に希望退職の募集など新たなリストラ策を打ち出していたが、22年度までの経営計画の途中で社長交代となるよりも、次世代の経営陣が今の時点から責任をもって改革を実行した方が良いと判断。山本正已前社長(現会長)の5期よりも1年短い、4期の任期をもって時田新社長へバトンを渡す。
田中社長は時田氏を、大規模プロジェクトで発生する困難にも動じない「パワフルな人物」と表現し、難局においてもビジョンの実現に向けて事業を推進できる実行力を評価。また、直前までロンドンに勤務してきた時田氏がグローバル事業の立て直しでも力を発揮することに期待を示した。
改革前進の施策を示せるか
社長交代に関する記者会見の中で、時田氏が複数回言及したのが、“自前主義”からの脱却と、海外市場での専門性の強化だ。
従来、企業のIT投資は基幹系システムの運用・保守に重点が置かれていたが、近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運の高まりで、新たなビジネスの創出につながるAIやIoTといった領域に関心がシフトしつつある。時田氏は「デジタルの時代に何が必要なのか。自前の製品やサービスだけでは対応できない。外の力も活用していくメンタリティに変えていかなければならない」と述べ、先進的な技術を持つ国内外のベンダーと協業していかなければ、DX時代の顧客のニーズを満たすことはできないとの考えを示す。「海外のテクノロジーの知見をいち早く入手できる人材を育成するため、語学も含めグローバルな研修にはより力を入れるべきだと思っている」(時田氏)。
また、海外市場ではPCの販売に代表されるプロダクトビジネスや、インフラの運用受託といった価格競争の激しい事業の比重が高かった。海外売上比率の向上を目指した結果、そのような「収益性は低いが売りやすい」製品・サービスの提供にますます拍車がかかるという悪循環に陥っていた。時田氏は、日本市場で取り組んできたような提案型の営業を海外でも適用していかなければならないとし、営業担当者やフィールドSEが現地の業務・業種に関する知見を蓄え、高付加価値のサービスを提供できるようにしていくと方針を示した。
ただし、このような成長戦略はこれまで田中社長が目指してきた道筋と共通しており、改革のビジョンを示せたとしても、それを実現するのが容易でないことは明らかだ。時田新社長も営業利益率10%の目標は継承するとしているが、6月の正式就任時には、改革をさらに前進させるための施策を示せるかが問われそうだ。