NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の庄司哲也社長は、今年7月のNTTグループの海外事業再編を「第二の創業」と位置付け、クラウド基盤やサービス領域のビジネスの拡大を推し進めていく。売上比率では音声・データ通信が6割弱、その他の非通信領域は4割強を占める。NTTグループの従来型の電話回線がIP網に移行する2025年までには、「この比率を逆転させる」ことを目指していく。再編後は海外と国内の二つの事業会社に分かれる予定で、海外ビジネスを追求していくことになる海外会社を、うまく成長軌道に乗せられるかどうかの力量が試されている。(安藤章司)
「One NTT」新体制で
成長軌道に乗る
NTTコムは今年7月で創立20周年を迎える。このタイミングで、NTTコムとディメンション・データを再編。国内と海外の二つの事業会社が発足する。NTTコムの海外売上比率は、2001年の約7%から、直近では25%程度まで拡大している。この25%分を切り出して、海外売り上げが中心のディメンション・データと再編するとともに、NTTデータとも連携。「One NTT(一つのNTT)」をスローガンに海外ビジネスの拡大を加速させていく。
庄司哲也社長
「One NTT」で目指していく姿は、IT基盤からマネジメントサービス、情報セキュリティー、個別SI、運用管理までの一貫したサービスの提供。具体的には、NTTコムがIT基盤やマネジメントサービス、NTTデータが個別SIの領域を担っていくことになるが、海外の顧客から見て「One NTTとしてビジネスをする」(庄司社長)体制に変革していく。
海外ビジネスでは、昨年末に合意した米国ラスベガスの公共安全のスマートシティ推進ビジネスを“成功モデル”として想定している。ラスベガスの案件は、NTTコムやディメンション・データ、NTTデータ、NTTコムウェア、NTTセキュリティなどNTTグループの先端技術を結集して獲得したもの。スマートシティでは、市中の映像や音声、天候、ソーシャルメディアの情報などを統合。NTTグループのAI技術「corevo(コレボ)」を活用して異常と思われるパターンを検出し、当局による初期対応の時間短縮を実現するものだ。
従来のようにNTTコムはデータセンター基盤、NTTデータはSI、ディメンション・データはネットワーク構築といったバラバラの商材では、スマートシティの推進といったまとまった規模の案件獲得は難しい。「One NTT」で結束し、一つのサービス体系としてまとめあげることで、海外での競争力向上につなげていく。
また、NTTコムの売り上げの約4分の3を占める国内事業の多くは日系企業が占めているが、その日系企業のうち半分が何らかの形で海外に進出している。新体制では、海外における日系企業に向けてのサービスもOne NTTの体制によって「より充実した一気通貫のサービスが提供できる」とみている。
NTTコム自身の
ビジネスも変える
NTTコムのビジネスの内容も大きく変えていく。NTTコムが強みとする通信ネットワークやデータセンター基盤、クラウドサービスなどのIT基盤と、その上で動くデータマネジメントやAI、月額課金サービスを提供する事業者向けのサブスクリプションビジネス支援サービスなど中心に、これまで主力だった音声・データ通信を上回るビジネスに育てあげる。
要素別にみると、AI技術の「corevo」をベースに開発した「COTOHA(コトハ)」では、AIチャットや機械翻訳、議事メモ自動作成などのモジュールを開発。今年度は複数の回答案から最適解を導き出す意味読解のモジュールを製品化する予定だ。サブスクリプションビジネス支援では、NTTコムウェアやサブスクリプションビジネスの統合プラットフォームを開発するビープラッツと協業した新サービスの立ち上げを、今年秋までに目指す。
データマネジメントでは、NTTグループが持つ画像認識技術や、データフロー管理技術を持つNTTデータ、機械学習の自動化に強い米国DataRobot(データロボット)などと協業してサービス強化を進めていく。NTTグループ内の協業にとどまらず、ビープラッツやデータロボットなど特定領域に強い外部ベンダーとも「意欲的にコラボレーションを進めていく」考え。
今回の再編では、海外ビジネス開拓の先鋒となるNTTコムとディメンション・データ、NTTデータがカギを握る。うまく突破口を開くことができれば、ラスベガスの事例のようにNTTコムウェアやNTTセキュリティといった特定分野に強いグループ各社も乗り込んでいくことが可能になる。庄司社長が掲げる非音声・データ通信の競争力を着実に高めて、NTTデータなどとの真の「One NTT」を実現できるかの正念場を迎えている。