米セールスフォース・ドットコム(マーク・ベニオフ会長兼共同CEO)は、向こう5年間で日本市場への投資を大幅に拡大する計画であることを明らかにした。同社がSaaSのパイオニアとしてクラウドCRMを市場に出して以降、追求してきた「顧客との関係」の再定義こそがデジタル・トランスフォーメーション(DX)の本質であるという信念の下、DX時代の国内IT市場で主役の座を狙う。(本多和幸)
1999年に創業した米セールスフォースは今年、創業20周年を迎えた。日本でもこれを記念したイベントを4月11日に都内で開催し、創業者でもあるマーク・ベニオフ会長が日本市場への投資計画を明らかにした。
米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長を中央に、
平井卓也・IT担当大臣(左)と日本法人の小出伸一会長(右)
まず、日本法人の社員は現在約1500人だが、これを2024年までの5年間で最大2000人増員し、3500人規模の組織にするという。また、人員拡大に伴うオフィス拡張策として、千代田区丸の内の和田倉濠沿いに14年に竣工した22階建てのオフィスビル「日本生命丸の内ガーデンタワー」の全オフィスゾーンを借り受け、21年下半期に日本法人の本社オフィスを移すという。なお同社はグローバルの重要拠点で高層オフィスビルを“一棟借り”し、「Salesforce Tower」と名付けて運営している。東京の新オフィスも「Salesforce Tower Tokyo」という呼称を使う予定だ。
新しい市場をリーダー
としてけん引する
ベニオフ会長は、これらの発表について「セールスフォースは約20年前、最初の海外オフィスを置く場所として東京を選んだ。今や日本に二つのデータセンターを設けて日本企業を支えている。Salesforce Tower Tokyoを活用できる運びになったのはユーザー、パートナー、日本法人の従業員をはじめ関係各位の努力の結果であり、心から感謝する」とコメント。さらに、親日家の同氏らしく新元号にも言及し、「新しい元号の令和には日本の素晴らしい可能性がシンボライズされている」というリップサービスも。その上で、「セールスフォースは自社の雇用を増やすとともに、これまで以上に日本のスタートアップにもどんどん投資し、新たな雇用を生み出していく。また、日本での社会貢献事業などにもさらに力を入れていき、日本の文化や社会とともに歩んでいく。第4次産業革命、DX、そして日本政府が進める『Society 5.0』の取り組みに共通するのは、あらゆるものがつながる世界になるということ。この新しい世界をセールスフォースがリーダーになってけん引していく」と力を込めた。
日本法人の小出伸一会長もベニオフ会長と論調を合わせ、「第4次産業革命やSociety 5.0によってどんな変化が起こるのかとさまざまなお客様に問われるが、どんな変化が起こったとしても、あらゆるものがつながった先には顧客がいる。セールスフォースは世界で最も厳しい市場であるCRM市場で長年トップを走り、誰よりも顧客との関係の在り方、そしてカスタマーサクセスを重視してきた。日本のユーザー企業の皆さんが生き残りをかけて取り組むDXを全面的にサポートするために、事業を大幅に拡大する」と強調した。
創業20周年記念イベントには、来賓として平井卓也・IT担当大臣も出席し、「セールスフォースはもはや外国のベンダーではなく、少子高齢化など日本の社会課題を共に解決していく仲間だと思っている。ベニオフ会長自ら、日本の良さを理解してくれた上で重要拠点と位置付けてくれていることに感謝したい」と、同社の日本市場への注力を歓迎する意向を示した。
新規パートナーの
参入障壁を徹底的に下げる
さらにセールスフォースは、自社の増員だけでなく、パートナーエコシステムの拡大にも従来とは異なるレベルの本気度で取り組む意向を示している。4月16日、パートナー向けの新たな施策として、「DXアクセラレーション」を発表した。これにより、現在約3700人のセールスフォース認定資格取得者を、3年以内に1万人規模に拡大する。SIerの新規パートナーも向こう1年で80社程度開拓する計画だ。
セールスフォース・ドットコム
井上靖英
常務執行役員
同社はDXアクセラレーションの目的を「日本企業におけるDXの加速、クラウド対応可能なエンジニア育成、セールスフォースのSIパートナー拡大を図ること」だとしている。日本法人でパートナー戦略を統括する井上靖英・常務執行役員アライアンス本部本部長は、「DXが進むにつれ、あらゆる産業が情報技術を活用してサービス化の方向に流れていく。DXの本質とは、いかに顧客との関係性を再定義するか。顧客接点の改革を成功へと導けるIT技術者こそが、今後のマーケットに最も必要とされる人材」だと話す。
一方で、国内ではIT人材の不足がいたるところで叫ばれている状況だが、その解決策として、セールスフォースはDXアクセラレーションによってセールスフォースビジネスへの参入障壁を大胆に引き下げるという手に打って出た。
DXアクセラレーションの具体的な内容としてはまず、パートナー企業の採用イベント支援や人材紹介・派遣会社、大学就職支援センターなどと協力して女性や学生のキャリアチェンジ、キャリア構築支援などを行うほか、オンライン体験学習プログラムをパートナー向けに提供する。パートナーのクラウド人材獲得や、社内の非IT人材のIT人材化を支援する施策だ。さらに、認定資格取得者を増やすことを目的に、従来有償だった研修講座をウェビナー形式でパートナーに無償で提供する。これにより、認定資格取得のための期間とコストを圧縮する。
新規パートナーの継続的な案件創出を支援する仕組みも提供する。パートナーマッチング制度により、新規パートナーとセールスフォース製品の導入経験が豊富なパートナーが組んでプロジェクトを受注するスキームをつくり上げていくもので、「新規パートナーは実案件の実績を積み上げることができ、強みや専門性を無理なく蓄積することができるようになる」(井上常務)という。また、セールスフォースとパートナーの共同マーケティング、共同セリングの拡大も視野に入れる。
セールスフォース・ドットコム
大岡 剛
執行役員
セールスフォースがこうした施策を打ち出した背景には、現状のパートナーエコシステムでは捌き切れない規模の同社ソリューションの需要がすでに顕在化しているという事情もある。大岡剛・執行役員アライアンス本部ストラテジックアライアンス第三営業部兼インダストリーパートナー営業推進部部長は、「今からセールスフォースをやっても遅いと考えているSIerも多いという印象だが、実際は新規パートナーにまだまだたくさんのビジネスチャンスがあることは強くアピールしたい。規模を問わず、全国のさまざまなSIerに新たに当社のエコシステムに加わってもらうべく、DXアクセラレーションの認知度向上を図っていく」と話している。