国産大手メーカー系ベンダーの2018年度(19年3月期)決算が出そろった。近年の構造改革の成果により成長軌道に乗るかに見えた富士通は、減収減益で事業売却の影響もあり売上高は4兆円を下回る結果に。一方で実行中の中期経営計画をわずか1年で仕切り直し、20年度を最終年度とする新たな3カ年計画により反転攻勢を目指すNECは、増収減益で連結純利益は従来予想を上回った。またIoT基盤「Lumada」事業が好調の日立製作所は、全社業績、情報・通信システムセグメントとも結果を残した。法人向けIT市場が成長基調にある中で、三者三様の現在地が見えてくる。(日高彰、山下彰子、前田幸慧)
日立は「Lumada」の好調が成長をけん引
グローバル事業が成長のカギ
構造改革は一段落――NEC
反転攻勢の準備はできたのか――。NECの18年度決算は連結売上高が前年比2.4%増の2兆9134億円、営業利益は同8.4%減の585億円、当期純利益は12.4%減の402億円で増収減益となった。ただし、いずれも当初計画を上回った。新野隆社長兼CEOは「グローバルを除く全てのセグメントの売り上げが増加した。営業利益が減少したのは構造改革費用を計上したため」と説明。19年度は、この構造改革効果とこれまで計上してきた構造改革費用が減少することにより、増収増益が射程圏内に入ったという手応えを示した。
NEC
新野隆 社長
同社は17年に、実行中だった19年度を最終年度とする中期経営計画を1年で見直すことを決め、18年1月に20年度を最終年度とする新たな中期経営計画を発表した。ここでテレコムキャリア事業の縮小、九つある工場の統廃合、小型蓄電事業からの撤退、そして国内8万人のグループ社員の約4%にあたる3000人の削減と、構造改革を盛り込んだ。
18年度の実績では、19年度以降の収益性改善のための施策により、リストラした人員の転身支援施策に200億円などの構造改革費用で350億円、NECオーストラリアの資産減損で60億円など、合計500億円を計上している。この500億円は一過性費用だとし、新野社長は「18年度に集中して計上したが、19年度に計上する予定はない」と説明。その上で、18年度までに実施した構造改革効果として255億円の改善を織り込んだ。
19年度はパブリック、エンタープライズ、ネットワークなど、主要カテゴリーの収益はほぼ横ばいとなる見込みだが、その中で期待が高いのが成長領域のグローバル事業だ。売上収益は18年度比31.6%増の5800億円、調整後営業損益は391億円増の170億円を見込む。パブリックやエンタープライズなどの主軸事業と比べて営業利益は半分以下とまだまだ小さい事業ではあるが、これまでNECが投資を続けてきた事業がやっと黒字に転じそうだ。
収益性の改善進まず改革継続
今期も横ばいへ――富士通
富士通の18年度連結決算は、売上高が前年比3.6%減の3兆9524億円、営業利益が同28.6%減の1302億円、当期純利益が同38.3%減の1045億円で、減収減益だった。コア事業に位置付けるテクノロジーソリューション事業(SIとそれにひも付く製品・サービス販売)だけを取り出しても、営業利益は同0.8%減の1879億円と、決して芳しくない。
もっとも、売上高の減少に関しては、PCの製造および個人向け販売、携帯端末、デバイス販売の各事業を売却したことが主要因で、想定の範囲内。これらの事業が連結対象外となったことで約2100億円の減収となったが、塚野英博副社長兼CFOは「事業再編の影響を除くと600億程度の増収」とし、本業では増収の軌道に乗っていると説明する。
シナリオ通りに進まなかったのが、収益性の改善だ。国内の不採算損失の圧縮は進んだが、海外ではハードウェア販売とその保守に依存する体質から脱却できていない。
塚野副社長は、売上高で全体の約8割を占めるテクノロジーソリューション事業について「国内は盤石になっている」「(サービスに関して、構造改革費用を除いた)本業ベースでは過去最高の利益を更新」と述べ、稼ぐ力は着実についてきているとの見方を強調する。しかし、19年度の業績は、売上高が3兆7500億円、営業利益が1300億円で、デバイス事業再編の影響を除くと、前期からほぼ横ばいの予想となっている。今期も欧州事業を中心に、構造改革は実行の途中段階であり、改善効果が数字となって表れるのは20年度以降になる見込みだからだ。
富士通は今年6月24日の株主総会を経て、時田隆仁新社長率いる新経営体制に移行する。改革の道半ばでそのバトンを渡される時田氏が、今期を底打ちの年にできるのか、手腕が問われる。
営業利益率8%の目標達成
19年度もLumada――日立
日立製作所が発表した18年度連結決算は、売上高が前年比1.2%増の9兆4806億円、調整後営業利益が同5.6%増の7550億円だった。情報・通信システムのセグメント単体では通信ネットワーク機器子会社だったアラクサラネットワークスの譲渡などの減収要因があったものの、SIが増加し、売上高は前期比3%増の2兆659億円だった。
IoT基盤「Lumada」事業は、顧客データを分析して価値に変換する「Lumadaコア事業」が前年比46%増の3350億円、IoT分野のSIを行う「Lumada SI事業」が同2%増の7920億円で、Lumada事業全体では同12%増の1兆1270億円だった。「収益性も着実に改善してきている」(西山光秋・執行役専務CFO)という。Lumada関連のソリューションやサービスの拡充や、Lumadaを活用した協創の拡大が、事業の成長につながったとしている。
19年3月期を最終年度とする中期経営計画では、売り上げよりも利益率を追う施策を推進。目標としていた「営業利益8%」を達成した。今中計を振り返った西山専務は「事業ポートフォリオ見直しや低収益事業の撤退などの構造改革を実行し、また、プロジェクトマネジメントの改善を推進して、収益性改善を実現した。減収の中でも利益を稼ぐ体質をつくることができたと認識している」とコメント。また、「Lumada事業の着実な伸長に加え、北米の日立ヴァンタラの発足など、グローバル成長の基盤を準備することができた」と語った。
20年3月期は、Lumada事業を中心に成長投資を行い、過去最高益を目指す。「情報・通信システム」に代わる新たな報告セグメントとする「IT」では、売上収益が前年比3%減の2兆600億円、調整後営業利益が2200億円と、減収減益を予想しているが、「デジタルソリューション事業のさらなる拡大に向けた戦略投資を増加して一時的に減益になるが、10%超の収益性は継続する」と西山専務は説明している。