昨年7月に破産申請を行った後、米データダイレクト・ネットワークス(DDN)に買収され経営再建に取り組んでいた新興ストレージベンダーの米ティントリが、復活ののろしを上げた。買収後では国内初となる5月23日の記者会見で、大手顧客およびパートナーとの取引は現在も継続しており、新体制では早くも過去最高の業績をあげているとアピール。今後はDDNのソリューションとどのようにシナジーを生んでいくかが課題となる。(日高 彰)
旧ティントリには
規律が欠けていた
内部に格納されている仮想マシン(VM)をストレージ機器自らが認識し、VMごとに性能や容量を管理・最適化できるストレージソリューションを提供してきたティントリ。2017年6月にはNASDAQへの上場も果たし、ユニークな技術をもつ新興ストレージベンダーとして注目されていたが、上場からわずか1年あまりで運転資金がショートし、チャプター・イレブン(米連邦倒産法第11章)の適用申請に至っていた。
救いの手をさしのべたのは、学術機関や研究開発部門の顧客を多くもつ、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けストレージベンダーのDDN。ティントリジャパンはDDNジャパンの一事業部門となり、法人格はもたないものの、一定の独立性を保ちながら国内での事業を継続している。
米ティントリ・バイ・DDN
フィリップ・トリコビク
バイスプレジデント
独自の技術をもち、顧客やパートナーからも評価されていたティントリが、なぜ一旦は経営破綻という事態を迎えたのか。当時の米ティントリ営業部門トップで、現在は米ティントリ・バイ・DDNで事業再建の責任者を務めるフィリップ・トリコビク氏は「ティントリには技術も製品も顧客もあったが、経営に規律が欠けていた。会社設立から7年の事業期間、1四半期も黒字を出したことがなかった」と述べ、堅実とは言えない計画の下に、野放図な事業拡大が繰り返されていたことを指摘。半ば公然と旧経営陣を批判した。特に人員の過剰が深刻で、この反省から現在は間接部門をDDNと共有することで効率化を果たし、採用のほとんどはサポート技術者に充てているという。
トリコビク氏は「DDNに示した事業計画案では、大手顧客の40~50%はティントリを離れて他社製品に切り替えることを想定していた」が、実際には大手企業顧客は「1社も離れることはなかった」と話す。昨年9月の買収完了以降、容量拡張のためティントリ製品を買い増す顧客が相次ぎ、2四半期連続で黒字化を達成するなど、業績は過去最高の水準で推移しているという。
パートナー網は維持
DDN製品のクロスセルも推進
日本国内では、ティントリジャパンで営業本部長を務めていた小野倫正氏が、DDNジャパンのティントリ事業部長としてリーダーシップをとる。記者会見のプレゼンテーションで国内事業に関して詳細な説明は行われなかったが、パートナー網も新体制に継承され、国内の顧客に対する製品や保守サービスが提供されているという。
富士通が「ETERNUS TRシリーズ」の製品名で販売していたOEM製品については、昨年7月で新規の販売は終了している。しかし、ユーザーイベントではETERNUS TRを導入した顧客が容量を拡張しながら運用を継続している事例が紹介されており、保守サービスの一環として現在も富士通からの製品供給は行われている模様だ。
また、今回の経営再建後初のアップデートとして、VM単位に加えてデータベース単位でも性能の可視化や制御を行える新機能が発表された。今後はさらに、コンテナ単位でも性能の管理を可能にしていくロードマップを描く。ITインフラの抽象化と集積化が進み、パフォーマンスの見積もりや問題の原因究明はますます難しくなっている中、ストレージ上の個々のデータがどのアプリケーションにひも付いているかをより細かく認識することで、サービスレベルを落とさず運用を効率化していく製品戦略だ。
DDNジャパン
ロベルト・トリンドル
ゼネラルマネージャー
DDNは今月、ソフトウェア定義型ストレージ(SDS)の米ネクセンタを買収する意向を発表している。HPC領域に特化してきたDDNにとって、ティントリやネクセンタが手掛けてきたエンタープライズ市場への進出は新たな挑戦となる。DDNジャパンの代表を務めるロベルト・トリンドル ゼネラルマネージャーは「ティントリやネクセンタを得たことで、今後はDDNが提案できなかった市場にも出ていきたい」と述べ、従来のDDN製品を、データアナリティクス用途などで一般企業に提案する活動にも力を注いでいく方針を示した。