レノボ・エンタープライズ・ソリューションズは、サーバーおよびストレージと、その構築・運用をセットにした従量課金制サービスの提供を開始した。リソースを使った分だけ支払う投資形態がオンプレミスでも可能になり、初期投資を抑えながら最新のハードウェアを導入できるようになる。「従量+固定」型の課金モデルも提供するなど、要件に応じて柔軟な契約形態をとれるのが特徴だが、従来のハードウェア販売に比べると取引形態は複雑。どのように販売パートナーの動機付けを図っていくかが課題となる。(日高 彰)
オンプレミスの製品をクラウドライクに利用
従量課金制サービスの名称は「TruScale Infrastructure Services」(以下TruScale)。海外ではいくつかの市場で提供を始めており、日本でも7月16日から正式に開始した。ユーザー企業は、サーバーやストレージといったレノボのデータセンター向けハードウェアを、購入することなく従量課金で利用することができる。
初期の構築、リモートでの監視、保守といった基本的な運用サービスが付帯しているほか、契約期間中にハードウェアの増設・アップグレードも可能。ユーザーはITインフラの運用・ライフサイクル管理から解放され、オンプレミスのハードウェアをクラウドのような課金体系、使い勝手で利用できるようになる。
ユーザーは、管理サービスにかかる基本料金に相当する「ベース・プログラム・コスト」と、リソースの使用に応じて従量制で発生する「可変利用料金」の合計を毎月支払う。ただし、毎月確実に使用するリソース分に関しては、契約時に「固定利用料金」として定めることも可能で、一定の支払いを確約する代わり、可変料金よりも安い単価でリソースを使用できる。可変部分と固定部分の比率はユーザーが任意に選択できるため、ワークロードに応じて投資を最適化できる(図参照)。
消費電力をベースに
料金を算出
一般的なクラウドサービスではサーバーの起動時間やストレージの消費量に対して利用料金が発生するが、TruScaleではハードウェアの消費電力に応じた課金を行う。レノボ・グループでTruScale事業のゼネラルマネージャーを務めるマシュー・ホーン氏は、この方式には「ユーザーデータのプライバシーに触れることなくリソースの消費量を測定できるというメリットがある」と説明。また、同社の管理ツール「XClarity(エックスクラリティー)」には、製品の消費電力を測定する機能が以前より備わっており、このツールの機能をそのまま活用できるのも、電力を基準とした理由であるという。ただし、TruScaleのサービスとして一律のワット単価を定めているわけではなく、ユーザーごとのアセスメントを行ったうえで、従量料金は個別に決定する。
レノボ・グループ
マシュー・ホーン
ゼネラルマネージャー
昨年、ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)が「GreenLake」のブランドで従量課金制サービスを開始するなど、ITインフラの領域では製品販売からサブスクリプションへの移行が進みつつある。ホーン氏はTruScaleの強みを「当社のサービスは実際に消費した量をベースとしたモデルとなっているので、消費が少ない月には料金を下げるといった経済性を提供できる。運用上の利点も含めたうえで、お客様ごとにカスタマイズした提供ができる」と説明する。
顧客はハードウェアを自社で保有・運用する必要がなくなり、利用料を毎月支払うだけのシンプルな形態で、最新の製品を使い続けられる。最低使用量のコミットメントもない。また、この種のサービスでは提供側が定めたメニューに製品構成が固定されるケースも少なくないが、ユーザーごとに柔軟な対応が可能な点をメリットとして挙げている。
しかし、逆に言えばTruScaleはメニュー化された製品やサービスに比べて複雑な商材となっており、レノボのデータセンター製品事業をサービス型へ転換するには、販売チャネルを巻き込んだエコシステム構築に粘り強く取り組んでいく必要がありそうだ。
物販ビジネスの代替ではなく
新たな事業の機会に
TruScaleは、レノボ製品および、レノボブランドで提供するネットアップのストレージ製品を新規導入する顧客が対象。契約にあたって最低導入台数は定められていないが、製品と構築・運用サービスのコストをトータルで最適化するという性質のサービスであることから、大手~中堅企業の仮想化基盤といった比較的大規模なITインフラが主なターゲットとなり、利用期間も最低3年以上を想定している。ただし、ビジネスの成長に従ってITリソースの拡充が必要になる新規事業で、何らかの理由でパブリッククラウドの利用が難しい案件の場合、大企業の一部門や、中小企業にもマッチする可能性はある。
レノボでは、TruScaleは従来のハードウェア製品と同じ商流で提供するとしているが、これまでレノボ製品を販売していたパートナーが、TruScaleにそのままスイッチするのは必ずしも容易ではない。消費電力をベースとした課金は、稼働時間やデータ容量よりも見積もりが困難で、TruScaleの特徴である「従量」と「固定」の最適な比率を算出するのも難しい。提案の難易度が高いだけでなく、パートナー自身の収益性を予測しにくいという点でも、取り扱いのハードルが高い商材と言えるだろう。
一方、インフラ製品の販売よりも、アプリケーション開発の領域で高い負荷価値を発揮できるSIerにとっては、TruScaleはレノボと補完的な関係を築く契機になり得る。ホーン氏は「TruScaleの全体的な構造をみると、レノボ側が資産所有者として財務的なリスクを負う格好になっている。複雑な部分は、われわれがいわば“ファームウェア”のレベルとして担当し、パートナーにはその上でソリューションを構築していだたく」と表現。TruScaleでは、顧客のハードウェアへの負担をレノボが一時的に肩代わりするような形態となっており、その分をSIerが提供するアプリケーションやサービスへの投資に振り分けてもらうことができる。
高橋寿和
統括本部長
また、日本法人でサービス事業を統括する高橋寿和・サービスビジネス統括本部長は、「一括購入した資産を用いてデータセンターを構築し、ユーザー企業へサービスを提供するという形態だけでなく、ハードウェアはサブスクリプションで利用いただき、ビジネスの成長に応じて、われわれがリソースを追加で提供していくという選択肢が生まれる」とコメント。TruScaleはITベンダー自身が利用するリソースの調達モデルとしても有効であり、データやセキュリティポリシーのコントロール権を自社で持てるオンプレミスの特徴と、投資リスクの最小化、リソースの柔軟な増減といったサブスクリプションのメリットを両立できるサービスだと説明した。