アイレット(齋藤将平社長)が「Google Cloud」の最上位パートナーであるプレミアサービスパートナーの認定を取得したと発表した。「Amazon Web Services(AWS)」の成長を支えてきた国内有力パートナーの一社である同社は近年、マルチクラウドへの対応を加速させる構えをみせていたが、その具体的な動きが顕在化したかたちだ。AWSの成長と軌を一にして拡大し、AWSのパートナーエコシステムの象徴的なサービスだったともいえる「cloudpack」がGCPをラインアップしたインパクトは大きい。(本多和幸)
Google Cloudのプレミアサービスパートナーに
アイレットは7月16日、Google Cloudのプレミアサービスパートナー認定を取得したことを踏まえ、これまでAWS上のシステム構築から運用保守までのフルマネージドサービスとして提供してきたcloudpackブランドに、Google CloudのIaaS/PaaSである「Google Cloud Platform(GCP)」を活用したインフラ構築サービスもラインアップした。年内には、リセールや運用保守も含めてAWSで提供しているものと同じフルマネージドサービスを提供する準備を整える。
同社は従来、積極的にアピールはしてこなかったが、GCPのビジネスも手掛けてきた。後藤和貴・執行役員エバンジェリストは「既存の顧客でGCPのニーズがある場合に、開発・リセールを小規模かつ部分的にやってきたのが実情だ」と話す。また、Google Cloudは伝統的に通信キャリアとの協業に力を入れてきたこともあり、アイレットの親会社であるKDDIもGoogle Cloudのプレミアサービスパートナーに名を連ねている。2017年にアイレットがKDDI傘下になって以降は、KDDIが獲得したGCP案件の構築、運用保守などは同社が手掛けることが多かった。
こうした経緯もあり、今回のプレミアサービスパートナー認定にあたって特別に大きな投資をしたわけではなく、もともと認定の基準はクリアしている状態にあったという。ただし、「今後は顧客に対してアイレットの技術力を可視化して分かりやすくしていくために、エンジニアの資格保持者は増やしていく」(後藤執行役員)方針だ。
MSPパートナーの重要性が増す
cloudpackのGCP関連サービスでメインのターゲットとなるのは、ゲームサービスなどを手掛ける企業だ。ビッグデータ解析プラットフォーム「BigQuery」を使ったデータ分析や、ゲームのストリーミング配信などでのニーズが特に大きいと見ている。アイレットは従来のcloudpackでもゲーム業界の顧客を多く抱えている。グーグル側はアイレットに対して、AWSユーザーにGCPの魅力をうまく訴求する役割も期待していると言えそうだ。
後藤和貴
執行役員
後藤執行役員も、「既存のcloudpackユーザーがAWSとGCPを両方使うケースは増えるだろう。アイレットが注力しているのは、顧客のニーズがあったらそれに応えたいというシンプルなこと。案件ごとに最適なものを提案できればいいし、そこにちゃんと認定を得た上で従来サービスと同レベルの別の選択肢を提供できるようになったのは大きいことだと思っている」と説明する。一方、グーグルがグローバルでフォーカスし始めた業務システム領域でのGCP活用については、「日本では普及にはまだ時間がかかりそう」(後藤執行役員)との感触だ。
いずれにしても、グーグルにとってGCPの日本市場における成長と法人向けビジネスの拡大は重要度の高い課題であり、実績のあるクラウドインテグレーターをパートナーエコシステムの中核に取り込むことでプレゼンスを高めたいという意図がにじむ。後藤執行役員は「MSPのように運用までカバーするサービスを手掛けるパートナーがいないとクラウドサービスは伸びないというのが再びトレンドになってきている」と話し、そうした観点でもアイレットへの期待を感じているという。ちなみに、AWSのプレミアコンサルティングパートナーとGoogle Cloudのプレミアサービスパートナーの両方の認定を取得しているのは、国内では野村総合研究所とアイレットのみだ。
近くAzureへの対応も
KDDIとアイレットは今年4月、米ラックスペースとの協業を発表し、ラックスペースが提供するマルチクラウド対応のマネージドサービスを日本市場に投入することを明らかにした。その際、ラックスペースは大型の業務システムのクラウド移行案件などに向けてKDDIがプッシュ型で営業していく方針であるのに対して、cloudpackはウェブサービスや新規ビジネス向けにプル型のセールス中心に販売することで補完的にビジネスを展開していく方針を示した。GCPのビジネスでもこの構図は共通で、KDDIと連携して幅広いユーザー層をカバーしていきたい考えだ。
アイレットは最終的にマルチクラウドに対応できるSIerというイメージをつくりたいのだという。AWSを猛追する「Microsoft Azure」についても、「今はまだ何も決まっていないが、無視しているわけではなく、マネージドサービスをやりたいという構想はある」(後藤執行役員)としている。