NSD(今城義和社長)と、中国SIerの成都ウィナーソフト(成都維納軟件、周密総裁兼CEO)は、協業関係を強化する。成都ウィナーソフトがNSDの子会社に出資し、同社の実質的な日本法人として機能させる。ブリッジSEの役割を担う人員も大幅に増やし、NSDをはじめとする日本のSIerやユーザー企業に向けた中国でのオフショアソフト開発サービスの受注拡大を目指す。NSDの中国市場におけるビジネスも支援していく。日中SIerの新しい協業スタイルについて両社トップに話を聞いた。(取材・文/安藤章司 撮影/松嶋優子)
一度は下火になった中国オフショア
NSDと成都ウィナーソフトは、協業の度合いを一段と深めています。かつての日中のSIerは中国オフショアソフト開発で協業してきましたが、今回もそのモデルなのでしょうか。
今城 人件費の安さを求める中国オフショア開発は、すっかり下火になりましたが、一方で中国の技術力や豊かなSE資源を確保するための中国オフショア開発は、むしろ重要性が増しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れもあり、2025年に向けてユーザー企業の情報システムの改修需要が高まっているにもかかわらず、国内のSE人材は圧倒的に不足しています。中国SIerとの協業はSEの人的資源を補うのにとても有効です。
周 中国SIerの立場から言わせてもらえば、かつては開発作業の請負が中心だった日本向けのオフショア開発サービスも、今では提案や設計まで踏み込むことが増えています。また、中国ではAIやIoTといった先端分野で、非常に多くのテクノロジー企業、スタートアップ企業が育っており、彼らの開発した技術を日本のユーザーに使ってもらい、ビジネスの競争力を高めてもらうことも、今なら十分に可能です。
成都ウィナーソフト
周密
総裁兼CEO
今回の協業の枠組みをお話しください。
今城 NSDの子会社だった日本RXテクノロジーの資本構成を周さんの成都ウィナーソフトから65%、当社が35%それぞれ出資をするかたちに今年5月に変えました。当社は成都ウィナーソフトの本社がある四川省成都市に成都仁本新動科技という開発子会社を2014年に設立しており、この会社は当社が70%、成都ウィナーソフトが30%出資しています。つまり日本の会社は成都ウィナーソフトがメジャー出資、中国の会社はNSDがメジャー出資という“たすき掛け出資”の枠組みにしました。
周 日本RXテクノロジーにメジャー出資をさせていただいたのは、成都ウィナーソフトの日本法人を実質的に日本RXテクノロジーと年内をめどに統合。当社グループの日本における中核企業にするためです。私が日本RXテクノロジーの社長を兼務するかたちで、成都ウィナーソフトとの連携をより一段と強化していきます。ちなみに、「RX」はNSDの成都と北京に開設している中国法人の名称が「仁本新動」で、これの中国語の発音の頭文字をとったものです。
日中それぞれの市場で協力体制を強化
NSDの中国市場におけるビジネスでも、成都ウィナーソフトとの協業を深めていく予定ですか。
今城 周さんのお話の通り、当社は北京と成都に中国法人を置いています。成都は周さんとの中国オフショア開発をメインとしていますが、北京は中国の地場市場でのビジネスに力を入れています。周さんは、北京に本部を置く中国の情報サービス業界団体「中国ソフトウェア産業協会(中国軟件行業協会、CSIA)」の常務理事を務めるなど、中国のSI業界との人的なパイプがとても太い。
NSD
今城義和
社長
当社は、例えば医療測定機器から得た健康情報を医師や看護師が遠隔でモニターできる遠隔医療サービスの仕組みを持っています。こうした当社独自の商材を中国で展開していくに際して、ビジネスパートナーになっていただける会社やキーパーソンを紹介してもらえたらうれしいですね。
周 中国では人脈がとても大切ですので、中国のSIer、あるいは他業種の会社とのマッチングをお手伝いができると思います。当社の成都ウィナーソフトも、中国地場のSIビジネスを幅広く手掛けています。日本向けのオフショア開発で育ってきた中国のSI会社の中には、肝心の中国地場でのビジネス規模が大きくなかったり、自社のマーケティングや営業力が弱かったりするケースが散見されますが、当社は違います。中国でのビジネスでも協力関係を築けると考えています。
今後の方向性をお話いただけますか。
今城 当社がビジネスを伸ばしていく上で、成都ウィナーソフトが持つSEの人的資源、技術力はとても重要です。今回、周さんが社長を兼務することになった日本RXテクノロジーは当社以外にも営業先を広げていくと聞いていますので、両社協業による営業力の強化も期待しています。
周 日本RXテクノロジーは今は約20人の体制ですが、早期に200人規模へと拡大させたい。成都では日本向けの開発人員は協力会社も含めて200人体制ですが、こちらも早い段階で300人体制に拡充していく方針です。成都ではすでに開発用のオフィスを拡張済みで、人員の受け入れ体制は整っています。あとはNSDとの協業をテコにビジネスに一段とドライブをかけていくだけです。