現場での単純作業を担う「サービスロボット」の市場が拡大している。この3月に開業したJR東日本の高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)では清掃や警備、案内などのサービスロボットを試験導入するなど大規模な施設での導入が進んでいる。TISは向こう3年でサービスロボット市場が5~10倍に拡大すると予測。アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)も、AWSのクラウド基盤上でロボット向けソフトウェアや統合管理が可能なRoboMaker(ロボメーカー)の売り込みに力を入れており、数百台規模のサービスロボットを効率よく稼働させるシステム構築のビジネスが活性化する見通しだ。(安藤章司)
空港や展示施設で知見を集積
SIerとして他社に先駆けてサービスロボット事業に参入したTISでは、東京ビッグサイトや中部国際空港(セントレア)での社会実装や実証実験に参加している。東京ビッグサイトではロボットをIoTデバイスの一つと位置付け、デバイスの統合管理と業務システムとのデータ連携を行うシステム構築(SI)を担当。サービスロボットの統合運用に関する知見を積み上げている。こうした実績が評価されるかたちで、「立ち上がりの速度こそ遅かったが、直近ではまとまった規模のSI案件が受託できるようになった」(松田一彦・AI&ロボティクスサービス部シニアプロデューサー)と手応えを感じている。
高輪ゲートウェイ駅に試験導入されたサービスロボット
サービスロボットの主な用途は、清掃と警備、運搬、案内といった作業のうち単純作業の部分を代替する。いずれも100%ロボットで置き換えることは現時点では難しく、「現場の作業員と役割分担しながら連携して作業するシステムの開発が、サービスロボット活用のカギを握る」(鈴木理恵・AI&ロボティクスサービス部上級主任)という。清掃を例に挙げれば、ロボットは床掃除はできても階段やスペースの隅、トイレの掃除は難しいため作業員と連携しなければならない。作業員のシフト表や作業工程、時間配分を踏まえた「人とロボットが協調できるシステム」(同)が求められる。
効率よくロボットを動かすのに欠かせないのが、異なるメーカーのロボットを統合的に管理する仕組みと、既存の業務システムとのデータ連携である。そのためのオープンなフレームワークやプラットフォームとして有力視されているのがIoTやロボティクス系のOSS(オープンソースソフト)やパブリッククラウド基盤だ。「ROS(ロス)」と呼ばれるロボット制御や動作シミュレーションを行うソフトや、スマートシティなどでIoTデバイスの管理やデータ連携の機能を持つ「FIWARE(ファイウェア)」の活用が進む。
オープン環境がSIの主戦場に
機械学習ソフトなどを開発するブレインズテクノロジーは、ROSとAWS RoboMakerを基盤として、ロボットを効率よく動かすAI(人工知能)の応用に取り組んでいる。清掃や警備、運搬といった複数種類、複数メーカーのロボットのデータを取り込んで、AWS RoboMakerの基盤上で徹底的にシミュレーションを繰り返す。「しっかり学ばせて賢くなったAIによってロボットを動かすことが可能になった」(榎並利晃・取締役)と話す。従来のロボット固有のプロプライエタリ環境では、学習できる量に限りがあり、複数種類のロボットを効率よく動かすことは難しかった。学習の場をプロプライエタリからオープンな環境へと移すことで、より実用的なサービスが実現可能になったというわけだ。
AWS RoboMakerは、アマゾンの通販で使う倉庫の運搬ロボットの開発で使われており、「アマゾン自身のロボット開発のノウハウも反映されている」(中澤宣貴・取締役工場長)という。ブレインズテクノロジーはROSとRoboMakerをベースに開発したAI技術を、竹中工務店が2020年度をめどに実用化を目指している建設現場用のサービスロボットに応用するなど、すでに実ビジネスを始めている。
マルチデバイス、業務連携がカギ
サービスロボットを巡っては、家庭用のロボット掃除機のルンバや、受付案内などをこなすPepper(ペッパー)が先駆けとなったが、これらが企業の本格的な業務に使われているかと言えば、まだ限定的と言わざるを得ない。
業務用途の実用化が進むためには、清掃や警備、運搬などに目的を絞り込み、人件費削減や人手不足の緩和といった投資対効果を最大化する提案が求められる。その際、デバイス単体で動かすのではなく異なるメーカーのロボットを統合運用するプラットフォームや、そこから得られる情報を収集、統合し、システム全体として稼働させ、既存業務とも連携させるといったSI的要素は欠かせない。「システムビジネス」としてSIerやソフト開発ベンダーの有望な市場になりつつある。TISは「要件定義やシステム開発のSI的なプロジェクト管理の手法が有効で、この市場が大きく成長していく」(松田シニアプロデューサー)と見ており、向こう3年でサービスロボット関連市場が5~10倍に拡大すると予測している。