日立製作所は、IT事業セグメントの今年度(2021年3月期)営業利益率10%を堅持する見通しを示した。通年でコロナ・ショックの影響を受ける今年度、他の事業セグメントの営業利益率が押し下げられるなか、IT事業セグメントの稼ぐ力を保つことで、日立グループ全体の営業利益率5.3%、当期純利益3350億円の確保を目指す。リーマン・ショック直後の09年3月期に当期純利益で7800億円余りの赤字を出した日立。この10年来の事業構造改革の成果が試されるとともに、「Lumada(ルマーダ)」事業をはじめデジタル技術を駆使したビジネスが利益確保のカギを握る。(安藤章司)
東原敏昭 社長兼CEO
IT事業セグメントの今年度営業利益は、コロナ・ショックの影響もあり前年度比23.1%減の1920億円、営業利益率は1.9ポイント減の10.0%の見通し。押し下げ要因については、観光業や旅客輸送、自動車など大きく新型コロナの影響を受けた業種を中心にIT投資の抑制が予想されることや、北米を中心にストレージ製品の販売が減速傾向であることを挙げる。一方で、世界規模で広がったリモートワーク関連の需要や、景気対策で公共分野や社会インフラの投資増も見込まれることから、「欧米でコロナの影響が比較的大きく、国内はトントン」(河村芳彦・執行役専務CFO)と見る。中国もすでにコロナの影響を脱しつつある。
IT事業が今期の利益を底支え
主要5事業セグメントのコロナ・ショックの影響を「除いた」見通しと「含めた」見通しの今期営業利益率を比較すると、インダストリー(産業)で7.5%から3.0%に、鉄道や昇降機などモビリティが8.1%から4.3%、医療機器や自動車向けADAS(先進運転支援システム)などのライフがが7.2%から5.3%へと大きく落ち込む中、ITとエネルギーの利益率の減少幅は比較的少なく抑えられる見込み。営業利益の金額予想で見ると、エネルギーは250億円とIT事業セグメントに比べて約8分の1の規模で、実質、日立全体の利益をIT事業セグメントで底支えする格好だ。
Lumada事業は1840億円の目減り
日立のITを軸としたデジタル関連事業の競争力の源泉となるのが、最新のデジタル技術を駆使してビジネスを刷新するLumadaである。昨年度のLumada関連事業の売上高は前年度比8%増の1兆2210億円。Lumadaのユースケースはすでに1000件を超えている。東原敏昭社長兼CEOは「上流のコンサルティングから設計、開発、運用までエンド・トゥ・エンドで迅速にサービスを提供できる」と、開発や運用の部分だけを請け負う従来型のSIよりも顧客に提供できる価値と収益力が高いことを強調する。
Lumadaの位置付けをより明確にするため、今年度からLumada事業の内訳を大幅に見直した。昨年度まではAI(人工知能)やデータ分析、IoTといったLumadaの中核商材を「Lumadaコア事業」、関連するシステム構築を「Lumada SI事業」と定義していた。同社の新たな定義では、基本的にSIをLumada事業には計上せず、AIやIoTを活用した新規ビジネス創出のコンサルサービスなどはLumadaコア事業に組み入れるほか、主要5事業セグメントの先進ITソリューションに近い要素をLumadaコア事業に集約する。一方で、日立は社会インフラや鉄道、設備などの制御や運用技術(OT)を強みとするが、そのうちLumadaコア事業と大きなシナジーが期待できるものを「Lumada関連事業」と位置付けることにした。
この新たな定義で昨年度のLumada事業の売上高を算出し直すと1840億円ほど売上高は目減りする。しかし、従来のように請負開発型のSIを計上せず、IT/OTの強みを前面に押し出してLumada事業を再構成することで、今後の成長率や収益力を一段と高められると判断した。
昨年度のLumada事業の売上高は前年度比8%増だったが、今年度の新Lumada事業は同12%増の1兆1600億円と予想。コロナ・ショックの影響を除いて算出した予想ではあるものの、3カ年中期経営計画の最終年度である21年度(22年3月期)には1兆4000億円の着地を見込む。ただし本来、中計では売上高1兆6000億円を目指していた。Lumada事業の再定義に伴い売上高の目標も変動した形だが、「関連するM&Aを視野に入れる」(河村専務CFO)とともに、海外売上高比率も最終年度には5割程度に引き上げ、もともとの目標だった売上高1兆6000億円の達成も諦めないという。
今回のコロナ・ショックは、08年のリーマン・ショックを上回る衝撃と言われる中、その影響の精査に「およそ2カ月かかりっきりになった」と東原社長兼CEOは話す。今期は日立全体で前年度比19.2%の減収ながらも、今期最終利益ベースでは前年度の875億円から大幅増の3350億円を見込む。リーマン・ショック時には7800億円余りの赤字を出したが、Lumada事業をはじめ不況に強い収益モデルを構築してきた成果が試される年度となりそうだ。