SAPジャパンは2020年4月、それまで常務執行役員を務めていた鈴木洋史氏が社長に就任した。新型コロナ禍とともに新体制が船出する形になったが、日本におけるビジネスは業績を落とさずに乗り切ることができそうな状況だという。事業継続が多くの企業にとって最優先課題だった昨春とは市場環境が変わり、ビジネスアプリケーションのモダナイズなどへの投資を加速させる企業も増えてきたことを追い風と捉えている。鈴木社長が掲げた「DXになくてはならない存在になる」という目標の実現に向けて、21年は勝負の1年となる。
グローバルを上回る
日本法人の成長率
――2020年4月の社長就任以前から緊急対策本部を立ち上げ、ビジネスのコロナ対応を進めてきた。現在の状況は(インタビューは20年12月)。
オンラインをフル活用したニューノーマルな行動様式が根付いてきている。イベントや、デジタルトランスフォーメーション(DX)支援のためのデザインシンキングのワークショップなども、オンラインでスムーズにできるようになっている。ただ、やはり全くの新規の顧客とのコミュニケーションには課題を残している。
SAPジャパン 鈴木洋史 社長
――20年度(20年12月期)の業績の手応えは。
4-6月の時点はどうなるのかという心配があったが、20年の後半には一旦止まっていたプロジェクトもまた動き出し、多くの企業がIT投資のアクセルを再び踏んだ印象だ。グローバルでは第3四半期(7-9月)までは前年度比でほぼフラットに推移してきたが(欧州SAPは1月18日に20年度通期業績を発表、総売上高は前年度比1%減の273億4000万ユーロだった)、SAPジャパンは第3四半期の売り上げが前年度比5%増、1月からの9カ月間では13%増とグローバルを上回る成長を維持している。
市場のトレンドとしては、日本企業のデジタル化やDXの取り組みが新型コロナ禍を契機に間違いなく加速している。グローバルでビジネスをしている企業は、今まで顕在化していなかった無駄やボトルネックに直面し、経営管理を見直すなどの動きが顕著になっている。今後もこの流れは変わらないだろう。
認定コンサルタントの拡充は
前倒しで目標達成
――商材別の動向は。
ERPは例年と変わらず非常に堅調だった。それ以外のSaaSも全般的に成長を継続している。例えばサプライチェーンの再構築にあたって、納期やコストの管理を強化すべく「Ariba」を導入する顧客が増えた。ニューノーマルをキーワードに働き方改革への取り組みが新たなフェーズに突入した感があるが、タレントマネジメントの「Success Factors」も好調だ。
また、従業員同士や顧客とのコミュニケーションがオンライン中心にシフトしている中で、それぞれのつながりを可視化してどう管理し、エンゲージメントを高めていくかも多くの企業にとって重要なテーマになりつつある。SAPグループであるクアルトリクスのエクスペリエンス・マネジメント・ソリューションも引き合いが非常に増えている。
こうした自社の製品を活用してSAP自身も改革を進めており、人事制度・雇用制度の在り方やDXの方法論など、日本のお客様とナレッジをシェアする例も増えている。
――ERP旧製品ユーザーの「S/4HANA」へのマイグレーションは、人的リソースのひっ迫などが課題として指摘されて久しいが、現状は。
18年初頭時点では認定コンサルタントの数が9000人だったが、これを5年で倍増させるという目標を掲げた。20年9月末時点で認定コンサルタント数は約1万8000人で、目標を2年半前倒しで達成している。SAP以外の基幹系システムを手掛けてきた新たなパートナーも増えている。ニーズには十分に応えられる体制を整えたと思うが、手綱を緩めることなく新規案件の獲得なども進めていく。
――21年の展望を。
グローバルで共通の方針ではあるが、クラウドシフトに注力し、お客様に満足していただけるクラウドカンパニーになることが目標。今までもS/4HANAを採用していただいたお客様の7割近くは、SaaSでの利用、もしくはPaaSの利用など、何らかの形でSAPのクラウドを利用している。21年はこれをさらに拡大する。20年にはHANAをクラウド環境でクラウドネイティブに利用できる「SAP HANA Cloud」もリリースしているし、パートナーとともに業種特化のクラウドソリューションを整備する「Industry Cloud」も拡充していく。
また、社長就任以来カスタマーサクセスを重視してきたが、まだまだ道半ばであり、引き続き注力していく。全社員のマインドセットを変え、人材や体制の整備を進める方針だ。
PROFILE
SAPジャパン 鈴木洋史 社長
1990年、創価大学経済学部卒。i2テクノロジーズ・ジャパンセールスディレクター、JDAソフトウェア・ジャパン代表取締役社長、JDAソフトウェア アジアパシフィック地域副社長、日本IBM スマーター・コマース事業担当理事などを経て、2015年、SAPジャパンにバイスプレジデント コンシューマー産業統括本部長として入社。18年1月に常務執行役員インダストリー事業統括に就任し全業種の大企業顧客を統括。20年4月より現職。