セゾン情報システムズが2020年9月で設立50周年を迎えた。セゾングループを出自とするSIerとして流通やフィナンシャル領域で事業を展開。ファイル連携ソフトの「HULFT」は国内外の市場で高いシェアを取ってきた。近年はデータ連携の強みを生かした新たなビジネス展開に力を入れている。内田和弘社長に50周年という節目を迎えた思いや、今後のビジネスの展望について聞いた。
事業構造改革の成果を実感
50周年を迎えられました。まずは率直な思いをお聞かせください。
内田 50周年はそんなに多くの企業が迎えられるものではなく、そのタイミングで自分が会社の責任あるポジションにいられたということに感謝しないといけません。また、先人の方やお客様、お取引先の方、当社の50年の事業に関わる全ての方々に心から感謝をしたいと思います。
内田和弘 社長
50年続いてきた会社なので、できればこれから50年後も世の中に必要不可欠な企業として残したい。そのための新しい事業基盤を作ることが私に課せられたミッションであり、使命であると感じています。
セゾン情報システムズは、1970年に西武流通グループ(のちのセゾングループ)の情報子会社として設立されました。
内田 70~80年代はグループがマーケティングカンパニーとして隆盛を極めた時期。日本経済の成長期で、大量消費の時代に、ヨーロッパからブランド品や美術品などを取り入れたりして、当時から単なるモノ売りではない、人の心に訴えるコト売りのビジネスを行っており、当社はITの分野からそれを支えてきました。50周年を迎え、そういった当社のDNAともいえる、モノ消費ではなくコト消費、あるいは心の世界に訴えるビジネスを行ってきていたということを、もう一度改めて学ぶ時期かなと考えています。
内田社長ご自身は2011年にセゾン情報システムズに入社、16年4月に社長に就任され、事業構造の改革に注力されてこられました。
内田 私が社長になる前の15年に中期経営計画を策定するリーダーになりました。それは過去の価値観やしがらみがない人がリーダーになったほうが良いだろうということが背景にあったんです。計画を作る際には、当社の生い立ちなど全部私なりに調べたのですが、そこで不思議に思ったのが、セゾングループの企業理念や文化といった大切なことが語り継がれていないのではないか、ということ。IT会社といってもかつては言われたことだけ、システムの意味や事業の意義とかを考えずにただただ作ってきてしまい、大切なことが根付いていなかったのだろうと思いました。それでもう一度、ミッションステートメントやビジョン、目指すべき企業像といった価値観を作り直しました。特に、当社には日本でトップ、世界でも3位のプロダクトとしてファイル連携ソフトの「HULFT」があり、自分たちの得意な分野で存在感が出る事業を展開しようと、「カテゴリートップの具現!~特定分野において、ダントツの存在感を発揮します~」をビジョンとしました。
また、私が社長についた当時は、会社に行かなければ仕事ができない環境だったんです。それはおかしいだろうと思い、時間や場所に依存せずに仕事ができる環境を作ろうとした結果、池袋から赤坂にオフィスを引っ越すとともに、社内のITネットワークを刷新。業務プロセスを変えるなど、今までの商慣習や“当たり前”を壊してきました。
その成果は出ていますか。
内田 リモートワークに関しては、コロナ禍に見舞われた中でも、スムーズに移行することができました。在宅で可能な業務比率は昨年9月末時点で88.8%まできており、在宅での決算も実現しました。また、社内システムのクラウド化も進めており、昨年10月末時点でのクラウド化率は68%です。これを21年度(22年3月期)中には100%にしていきたいと思っています。
事業構造としても、今まで労働集約的だったものが、労働集約ではない形にこの4年間で変化してきています。結果的に当社全体の売上額はピーク時より下がっていますが、一人当たりの営業利益は拡大。社員の健康や生産性に関する各種指標も良くなっていて、この4年間の中でできないといわれてきたことをどんどんとチャレンジしてきた。その成果を社員が実感し始めることができたのかなと思います。
世界で存在感を発揮できる企業に
近年は、新しいテクノロジーの活用、新しい市場への展開でビジネス領域を拡大するニュービジネスの創出に力を入れています。
内田 HULFTや流通、フィナンシャルといった各事業セグメントで、既存領域と新規領域、既存技術と新技術の各領域・技術の組み合わせで4つの象限に分け、「既存領域×既存技術」を除く3つの象限を新しいマーケットとし、ビジネス展開に注力しています。ここの事業構成比率は、20年度上半期時点で31%にまで高まっています。新しいテクノロジー、領域で提案をしない限りビジネスとして増えないので、それだけ社員が能動的に動いてくれているのだと認識しています。
また、新サービスとして、ファイル連携ソフトのHULFTやデータ連携の「DataSpider」といったツールを使って企業やシステムをつなぐリンケージサービスを推進。社内システムのクラウド化の中で「Concur」「BlackLine」「Kyriba」「Tableau」などさまざまなグローバルベンダーのSaaSを実際に利用し、当社製品の利用価値を自分たちで確認するという活動も行っています。このリンケージビジネスの顧客数は20年度上半期で累計139社になりました。今年は、当社のファイル連携やデータ連携のサービスをクラウド上で提供する新たなリンケージサービスのプラットフォームもリリースする予定です。
今後の目標を教えてください。
内田 ファイル連携やデータ連携による“つなぐ”強みは、他社が持っていない当社ならではのものです。これを生かして、50年後も存在できる事業基盤をこの2~3年でつくり、「データエンジニアリングカンパニー」となることを目指します。
また、日本発で世界で存在感のあるITベンダーになりたいという思いもあります。現在、HULFTは世界シェアが3位ですが将来的には1位になりたい。今後もしかしたら市場の定義が変わることもあるかもしれませんが、それでも常にベスト3の状態で、注目ベンダーの一つとして世界からウォッチされる存在でありたいですね。