アジャイル開発を効率よく実践するための枠組み「SAFe(Scaled Agile Framework)」の普及促進に向けた動きが活発化している。開発元である米スケールドアジャイルの日本法人Scaled Agile Japanは、ソフトウェア開発の技術的な領域にとどまらず、組織改革から人材育成の指針づくり、クラウドを前提とした開発環境、権限委譲、働く場所の再設計に至るまで、アジャイル開発に必要な要素を幅広くフレームワークにまとめたSAFeの強みを訴求。併せてビジネスパートナーのNTTデータによる国内唯一の公開可能なSAFe活用事例を明らかにした。ビジネスパートナーとの協業を積極的に推進し、向こう3年で売り上げを5倍に増やす目標を立てる。(安藤章司)
変化激しいスマホ決済に
素早く対応
SAFeは、アジャイル開発人材の育成に力を入れるNTTデータや富士通、TDCソフト、TIS、オージス総研、システム情報の6社の既存パートナーが中心になって国内への展開を推し進めてきた。アジャイル開発を担当する技術者らが参加する勉強会は、「2019年当時、最初はわずか26人からスタートしたが、今は550人余りが参加するコミュニティーへと成長した」と、Scaled Agile Japanの古場達朗カントリーマネージャーは話す。
Scaled Agile Japan 古場達朗 カントリーマネージャー
2月17日には、国内で公開可能な事例で唯一となるSAFe活用の具体的な成果をNTTデータが発表。NTTデータの主力サービスの一つで、国内最大のカード決済基盤である「CAFIS(キャフィス)」開発の一部にSAFeを応用したところ、従業員の職場に対する信頼度や愛着度を示す従業員エンゲージメントが20~30%向上するとともに、ソフトウェアのリリース頻度も従来の開発手法と比較して倍増したという(図参照)。
CAFISは37年にわたってカード決済を支えてきた基盤で、ウォーターフォール方式で手堅く構築・保守してきた経緯がある。しかし、近年スマートフォン決済が隆盛し、CAFISにもスマホ決済に対応した新しい仕組みが必要になった。プレーヤーが入り乱れて、仕様が目まぐるしく変わる中、「従来型の開発手法ではスピード感をもって対応できない」(NTTデータの市川耕司・システム技術本部デジタル技術部Agileプロフェッショナル担当部長)と判断し、SAFeを取り入れた。
NTTデータ 市川耕司 部長
従業員満足度、
生産性が大きく向上
SAFeを選んだ理由としては、SAFeのシェアが高い国・地域が多く、世界225都市でITビジネスを展開するNTTデータにとって有利であることや、経営層や組織全体の改革が含まれるとともに、頻繁に更新がされていることを挙げた。ウォーターフォール方式に馴染んできた組織が、アジャイル開発の発想や方法論に切り替えるのは容易ではない。SAFeではこうした開発側の構造的な課題にも早くから着目しており、SIerの会社組織のあり方や社員の意識改革、クラウドを前提とした開発環境、デジタルツールを活用した情報共有、現場への権限委譲に至るまでを網羅。NTTデータでは、オフィスや働く場所についても対面・オンラインを問わずSAFeをベースに徹底した改革を行った。
キャッシュレスを取り巻く環境変化への適応にSAFeを応用した事例では、「価値が高いものの優先順位を上げて開発し、フィードバックを早めることで生産性が20~30%向上した」といい、CAFISの近代化に大きく役立ったと市川部長は話す。
具体的な成果を伴った国内事例についてScaled Agile Japanの古場カントリーマネージャーは、「CAFISの事例以外でも、現在進行形でSAFeを活用して、組織改革を伴うアジャイル開発への移行を進めている案件がすでに国内で10件ほどある」としており、新しい事例を公表する準備が進んでいる。
同社の収益源は、各種の認定資格の付与や更新料、教育サービス、教材の販売などで、向こう3年で認定資格者を国内で1万人、SAFe採用企業数を50社、売上規模を5倍に増やすことを目標に掲げる。古場カントリーマネージャーは「国内市場は先進的なSIerがSAFeを採用した段階で、これからより多くのベンダーに普及させていくにはまだ大きな壁がある」と指摘。壁を乗り越えるために開発者コミュニティーの一層の成長や事例公開、より多くの教材の日本語化、ビジネスパートナーとの協業を深めていく。
既存の6社のパートナーにとどまらず、アジャイル開発を組織的に取り入れようとするSIerを積極的にSAFeコミュニティーに迎え入れ、「日本にSAFeを完全に根づかせる」(古場カントリーマネージャー)よう努めていく方針だ。