クラウドベースのカスタマーサービスソフトウェア「Zendesk」を提供する米ゼンデスクは、日本における大型案件の獲得拡大へ足場を固めている。国内市場ではスタートアップや中小・中堅企業に強い同社だが、規模の大きい案件についても徐々に手を伸ばしており、大手SIerとのパートナーシップ構築に向けた話し合いも進んでいる。ゼンデスク日本法人の冨永健社長は「『ゼンデスクは大型のコンタクトセンターも手掛けられる』という空気がマーケットに流れている。大規模な顧客が興味を持ち始めてきた」と述べ、国内市場でのプレゼンス向上に意欲を示した。
冨永 健 社長
Zendeskはカスタマーケア分野向けのコミュニケーションツールで、電話やメール、SNS、チャットなど多様な顧客接点の一元管理が可能。顧客情報や問い合わせの内容、ステータスなども把握できるほか、社内の既存システムや外部ソリューションとの連携による機能拡充も容易にできる柔軟性に特徴がある。使いやすいUIや機能に対する費用面でも優位性があるとする。
これまでは小規模な企業への導入がメインだったが、マルチチャネルへの対応や効率化へのニーズが高まるにつれ、比較的大型な案件も増えている。
パートナー戦略に関しては、クラウドなどの最新技術に親和性の高い企業が中心であり、旧来型の技術に強みを持つ企業との関係が希薄な面もあった。しかし、規模の大きい顧客では、既存システムへの対応も必要となるため「大きな顧客とがっぷり四つが組めるSIerとの協業」(冨永社長)に力を入れるタイミングだとみている。
一方で冨永社長は、ゼンデスク側から大手SIerに対するアプローチは「うまくいかないので、あえて行っていない」と話す。まずは先方に興味を持ってもらうため、規模が大きめの案件を成功させることが重要と考えており「まずは既存のパートナー企業とともに、歯をくいしばって案件を取っていく」と強調する。実際、現在話し合いを進めている大手SIerは、大型案件の実績を目に留めたことから声掛けに至ったという。
地方展開にも注力する。すでに各地域の中小規模SIerとの連携も生まれており、そこから「ローカルキング」と呼ばれる各地方の有力SIerとの関係構築を図っていく。
並行してコンサルティング機能の充実も進める。すでに一定規模の売り上げを超えた顧客に対してはカスタマーサクセス担当が現状分析などのサービスを行っている。ここから機能拡充などのニーズが生まれた段階で、新たに配置する既存顧客担当営業が具体的なユースケースを提案し、さらなるビジネス展開につなげていく。
米本社が日本市場に寄せる期待も大きい。アジアパシフィック向けの予算とは別枠で日本単独への投資計画が立てられており、積極的にリソースが投入される見通し。今後は日本法人の人員強化も進める予定だ。
カスタマーケアに関するソリューションは競合がひしめく市場だが、冨永社長は「『次のカスタマーケアはこうあるべき』と明確な方向性を示して、ゴールを提案できる会社はほとんどない」と自社の強みを語る。次世代のカスタマーケアの理想像を掲げるとともに、その実現に向けた方策を提案することで、着実に市場を取り込んでいく構えだ。(藤岡 堯)