SIerのCLINKS(クリンクス)は、IT技術者がリモートで“客先常駐”する「テレスタ」の人員数が、コロナ禍前に比べて3倍余りの約70人体制へと拡大した。IT技術者の働き方の一つに客先に常駐してシステム開発に従事するスタイルがあるが、これを自宅にいながらテレワークのスタイルで従事するのが「テレスタ」である。コロナ禍以前は「物理的に技術者が常駐することを重視する顧客が多かったが、今はリモートで常駐してくれればいいという顧客が増えた」(河原浩介代表取締役)ことから、テレスタ事業の伸びにつながった。
河原浩介 代表取締役
テレワークで客先に常駐するスタイルが始まったのは2016年からで、大都市圏で慢性的に不足するIT技術者を補完するため、地方や郊外に住んでいる技術者を動員できる仕組みをつくることから始まった。テレスタ枠で採用した技術者は、出社する必要がなく、客先に物理的に常駐しないことを前提としており、一般枠の社員とは契約形態を変えている。これは仕事があるからといって在宅勤務を希望する技術者を出社させたり、現地に常駐させることはないことを保障し、「地方在住者も安心してテレスタに参加してもらうため」だと河原代表取締役は話す。
テレスタのサービスを始めて、課題となったのはコミュニケーションの取りにくさだった。メールや電話では効率が悪いため、18年頃にCLINKS独自のSaaS型の情報共有ツールを開発。随時パソコンの画面を共有したり、チャットや音声、ビデオ、勤怠管理システムとの連携などの機能を盛り込んだ。CLINKSのテレスタ社員同士の情報連携はもちろん、客先と常時つながることで“常駐感”を高める効果を実証した。パソコンの操作画面は顧客固有のシステム開発の情報も含まれることから、必要に応じて画面をぼかす保護機能も実装。今年3月には、この情報共有ツールを「ZaiTark(ザイターク)」として商品化し、外販も始めている。
コロナ禍直前までのテレスタのIT技術者は20人ほどだったが、コロナ禍でリモートワークが強く推奨される状態になると、情報共有のZaiTarkを活用したテレスタに対する引き合いが急増。直近では約70人の体制へと拡大した。
テレスタ技術者の居住地は、北は北海道から南は九州まで幅広く、河原代表取締役は「テレスタがなければ雇用できなかった貴重な技術者だ」と、テレスタが優秀な人材の獲得につながったと話す。この先、コロナ禍が収束したあともテレスタ需要は伸びるとみており、「将来的に1000人体制へと拡充したい」と、テレスタ事業の一段の増強に意欲を示す。
CLINKSは連結従業員数約1000人で、IT基盤の構築に強いSIerである。売上構成比はIT基盤領域が6割、業務アプリ開発が3割、その他子会社でゲームソフト開発などを手がける。IT基盤はデータセンターなど現地での作業があるためリモートワークには向かない傾向があるが、アプリ開発はテレスタによって伸びる余地が大きい。今後は例えば「プログラミング言語のPythonに強い」といった特定領域の仕事だけ時間を区切って従事してもらう“副業的な働き方”への対応を検討するなど、場所と時間の制約にとらわれないテレスタ事業の拡大に力を入れていく方針だ。(安藤章司)