自動車整備業向け業務アプリなどの開発を手がけるブロードリーフは、売り切り型のパッケージ方式での販売を事実上取りやめてSaaS方式での販売に切り替えた。月額課金への移行によって本年度(2022年12月期)の連結売上高は前年度比40.4%減、営業利益は48億円の赤字に転落する見込み。しかし、自動車整備業向けを中心に盤石な顧客基盤を持つ同社は「将来に向けて確実な黒字化が見通せる」(大山堅司社長)と自信を示す。
大山堅司社長
業務パッケージの開発を手がけているソフト開発ベンダー(ISV)の多くがSaaS方式で提供しているが、ブロードリーフのように、主要製品のパッケージ版を終売にして、2期連続の赤字を前提にSaaS方式へ切り替えるケースは国内上場ISVでは極めて珍しい。
パッケージ製品の販売を継続した場合、一定数の技術者を割かねばならず、営業も一度にまとまった売り上げが期待できるパッケージ販売を優先する心理が働きかねない。少しずつSaaS移行をすれば、売り上げの大幅減や赤字は回避できるかもしれないが、「中期的に見るとSaaS移行の期間が長くなり、会社や顧客のビジネスの成長にプラスにならない」と大山社長はみる。
本年度にスタートした中期経営計画では、SaaS移行の期間を28年度までに設定した。既存顧客のソフト使用許諾のリース契約が4~5年で終了することを踏まえ、SaaS版に乗り換えてもらうよう働きかけるのにはある程度の期間が必要だと判断したからだ。SaaS移行が順調に進めば、3年目の24年12月期には営業黒字を回復し、26年には過去最高業績を更新できると見込む。
海外を視野にクラウド戦略を推進
SaaS移行を決めたもう一つの重要なポイントは、海外進出を視野に入れたクラウド戦略がある。SaaS版の開発と並行して、ブロードリーフ独自のクラウド基盤「Broadleaf Cloud Platform」を米グーグルの「Google Cloud」上に構築。マイクロサービスアーキテクチャーやAPI接続口を設けて、他の業務アプリやSaaSアプリと柔軟に連携できるようにした。
自動車整備業向けの業務アプリで大きなシェアを持つ同社だが、これまで海外市場には進出できていなかった。国や地域によって規制や制度が異なり、国内向けの業務アプリをそのまま展開することが難しいことが理由だ。大山社長は「自動車整備業で実績のあるBroadleaf Cloud Platform上に現地のパートナーの業務アプリを移植してもらい、当社のアプリと連携させることで、海外市場への進出の可能性を探る」と意欲を示す。
北米系のSaaSベンダーの間では、競合他社より速くシェアを伸ばしたり、ユーザー数の伸びによる黒字化を見越して赤字前提でビジネスを立ち上げたりするケースがよく見られる。こうした動きに鑑み、ブロードリーフも、短期的な赤字転落を覚悟しつつ、早期の海外進出を狙うためにクラウド戦略を推進する。(安藤章司)