ベトナム大手SIerの日本法人FPTジャパンホールディングス(FPTジャパンHD)は、今年春をめどに栃木県と静岡県にニアショア拠点を新設する。既存のニアショア拠点の福岡と札幌も拡充する予定で、これに沖縄拠点も合わせて計5拠点体制に増やす。昨年度(2022年12月期)は国内での大幅な新規採用とともに、ベトナムからの出向者、国内協力会社を含めて計800人の人員を増強している。ド・ヴァン・カック社長は、「顧客企業に近いところで、迅速にシステム開発を行う体制強化を進める」と、ニアショア開発の能力向上でビジネスのスピードアップを目指す。
(安藤章司)
ド・ヴァン・カック 社長
昨年度のFPTジャパンHD全体の売上高は前年度比30%増の300億円と目標を上回る見込み。伸びた要因は旺盛なシステム開発需要に加えて、国内でSE職を中心に約400人を新規に採用するとともに、ベトナムのFPTグループから約200人の出向者を受け入れ、さらに国内ビジネスパートナーの動員可能なSEを200人規模、合計800人を増員したことが挙げられる。国内での従業員数は2100人に増え、本年度も昨年度と同等規模の増員を計画している。
主要顧客を業種別に見ると、製造業が売上高全体の35%ほどを占め、次に金融業が25%程度、その他は通信や小売、物流などの業種が占めた。製造業向け売り上げの約4割を組み込みソフト開発が占め、自動車向け制御ソフト開発基盤のAUTOSAR(オートザー)を活用した開発や、ECU(電子制御ユニット)向けの開発案件が好調という。ド社長は「自動車や精密機器向けの組み込みソフト開発は当社の強みとする領域の一つ」と話す。
ベトナムのFPTグループは、日本向けの開発を担うSE人材を1万人規模で整備しており、開発の主体はベトナムでのオフショア開発部門が担っている。しかし、一方で顧客企業の課題の聞き取りやソフト開発の要件定義といった上流工程からしっかり対応するには、「顧客の業務に精通した人材が顧客に寄り添い、スピード感をもって開発を行うには国内の営業拠点やニアショア拠点の拡充が不可欠」(ド社長)と判断。国内拠点の拡充と人員増を推進することにした。
東名阪をはじめ主要な営業拠点に加えて、今年春をめどに栃木県宇都宮市内と、静岡県内にニアショア拠点を新設する準備を進め、札幌と福岡の人員も増強する。沖縄拠点と合わせて国内5拠点のニアショア開発と、ベトナムのオフショア開発を上流工程、開発工程など工程ごと、あるいは顧客の要望に合わせてバランスよく使い分けることでビジネスを伸ばす考え。
また、国内SIerやコンサルティング会社といったビジネスパートナーとの連携も強化する。ニアショア開発で協力関係を構築するとともに、「特定業種のノウハウを持ち、コンサルティングなど上流工程を支援できるパートナーとの協業関係を強めていく」(ド社長)方針だ。国内事業のみならず、ベトナム市場に進出するSIerを支援する活動にも力を入れる。昨年7月にはSCSKが開発するAUTOSAR準拠の「QINeS BSW(クインズビーエスダブリュー)」のベトナムを含む海外販売で業務提携するなど、FPTグループが強みとする組み込みソフト開発での協業も進めている。
こうした取り組みによって、27年度をめどに年商10億ドル(1350億円)を目標に掲げ、国内SIerの売り上げ上位20位以内に入ることを目指す。