豆蔵デジタルホールディングス(豆蔵デジタルHD)が傘下の事業会社3社で数年来取り組んできた構造改革が実を結び始めている。一部の事業会社で10%程度だった営業利益率を、2024年3月期の連結営業利益ベースで18.8%まで伸ばした。現在は豆蔵がアジャイル開発やユーザー企業の内製化支援に注力し、エヌティ・ソリューションズ(NTソリューションズ)は元請け比率の拡大などを推進。コーワメックスは自動車ソフトウェア制御の領域へ積極的に進出して付加価値を高めている。豆蔵デジタルHDは24年6月27日付で東京証券取引所グロース市場に上場を果たした。
(取材・文/安藤章司)
Dynamics 365軸に元請け比率高める
株式上場に至るまでのこれまでのグループ構成の変遷についてお聞きしたい。
元々は豆蔵グループ創業者の荻原紀男氏が会長兼社長を務める豆蔵K2TOPホールディングスの傘下に、当社とオープンストリームホールディングス(オープンストリームHD)の大きく二つの事業会社集団を配置する構成だった。
中原徹也 社長
当社は今年6月27日付で東証グロース市場に株式上場を行い、オープンストリームHDは今年7月にアクセンチュアグループ傘下になったことが発表されている。荻原さんは長年、私の上司だったが、株式上場によって当社大株主の1人へと関係が変わった。最初は少し戸惑ったが、今はもうだいぶん慣れた。
豆蔵デジタルHDグループとしての新規上場に向けて、どのような準備をしたか。
豆蔵デジタルHDは、旧豆蔵グループを再編するかたちで20年11月に会社登記の手続きを行い、21年4月から本格的に事業を立ち上げた。当社グループ傘下には▽豆蔵▽NTソリューションズ▽コーワメックス―の三つの事業会社があるが、豆蔵以外の2社の営業利益率に改善の余地があり、ここ数年は収益力を高めるための構造改革に力を入れた(表参照)。
具体的にはどのような構造改革を実施したのか。
豆蔵の営業利益率が20%近い水準だったため、まずはほかの2社も同水準に合わせるにはどうしたらよいかを考えた。
マイクロソフトのERP「Dynamics 365」を中心としたシステム構築(SI)を手がけているNTソリューションズは、数年前まで元請け比率が全体の10%程度と低かったことが利益率が高まらない大きな要因だった。豆蔵から元請け案件の一部を割り振ったり、NTソリューションズ自身の営業努力を行ったりして、直近では元請け比率を約40%、営業利益率を約20%の水準まで持っていくことができた。
Dynamics 365に対する需要増もプラスに働いた。中小規模のユーザー企業が多いのかと思っていたが、実際には従業員数1000人超の比較的大規模なユーザー企業の納入案件もある。プロジェクト数の増加に加えて、大規模案件への対応力も高めていく。
ソフトウェア制御が価値創出のかぎに
コーワメックスの構造改革はどうか。
名古屋市に本社を置くコーワメックスは、当社グループの中でも異色の存在で、自動車を制御するECU(電子制御ユニット)を長年開発し、電気・電子とハードウェアの両方に強みを持つ。従業員数は460人余りと、最も大所帯だ。収益力の向上に向けては、ADAS(先進運転支援システム)やインターネット接続、自動運転といったCASE領域に積極的に進出して付加価値を高めたことで、10%台前半だった営業利益率を10%後半まで持っていくことに成功した。
27年3月期までの3カ年中期経営計画での業績目標は。
24年3月期の連結売上高95億8600万円、営業利益17億9900万円(営業利益率18.8%)の実績に対して、中計では売上高を年率10~12%、営業利益を同15~17%ずつ伸ばす計画を立てている。仮に売上高を10%ずつ伸ばせたとすれば最終年度に約130億円、営業利益は約27億円、営業利益率は20%余りに達する見込み。売上高を伸ばしつつ、営業利益はそれ以上大きく伸ばしていく考えだ。
豆蔵のビジネスはどのような成長戦略を描くか。
豆蔵はAIやロボティクスなど先進的なデジタル技術を活用したSIを得意としており、近年のユーザー企業自身が主導したデジタル化、内製化が大きな追い風になっている。アジャイル開発の手法を取り入れたソフトウェアの随時アップデートで製品やサービスの付加価値を高めていく手法が主流になっていくとみている。
アジャイル開発はユーザー企業が主体となって内製化する体制を構築しないとうまくいかない傾向が強い。豆蔵はアジャイル開発を得意とし、ユーザー企業と一体となって内製化を後押しし、ソフトウェアで付加価値を高めるビジネスを伸ばしていく。
ロボティクス事業の見通しは。
自動車と同様、産業用ロボットにおいてもソフトウェアによる価値創出の比率が高まっている。自動車など単価が高い製品に多く使用されてきた産業用ロボットだが、小型で安価なロボットをソフトウェアで細かく制御することによって弁当や板金といった単価が高くない領域に広げていくことが可能になる。少子高齢化による人手不足を補う社会的な要請を踏まえ、ロボティクス事業も大きく伸ばしていきたい。