従来比較で3-5倍も消費電力が少ない携帯機器向けの音楽再生用LSIを設計した。実用化すれば普通の携帯電話が音楽プレーヤーに早変わりして、1日中、ガンガン音楽を聴ける―。
こんな画期的なLSIを設計したのは、メンバーわずか8人のベンチャー企業である。
LSIの動作周波数を従来の約6分の1に落とすことで電力消費を抑えた。周波数が高ければ高いほど処理能力が高い、というのが常識。これを周辺回路の性能アップで処理能力はそのままに、消費電力だけを引き下げた。製造コストも従来どおりである。
「音楽再生には、最低でも75MHz必要だったが、これを12MHzで同様の性能を発揮できるようにした。ベンチャーが大手半導体メーカーと周波数の増大競争に加わっても勝ち目はない。逆に周波数を下げることで勝負する」
まさに逆転の発想だ。携帯電話などのモバイル機器は、今後、音楽や映像など、ますますマルチメディア化する。小型軽量が必須なこの分野で、電力消費の低減に対する需要は非常に大きい。アイデアひとつで巨大市場をリードできる。
「次は、映像処理に挑戦する。数年後は、われわれが設計したLSIを組み込んだ小さな携帯機器で、今よりずっと長い時間、映像や音楽を楽しめるようになる」
モバイルマルチメディアの可能性を半導体デザインの側面から追求する。
プロフィール
太田 謙
(おおた けん)1962年、長野県生まれ。86年、東京工業大学工学部電子工学科を卒業。91年、同大学院総合理工学研究科電子システム専攻博士課程を修了。工学博士。91年、日本モトローラ入社。00年、半導体回路の設計を専門とするファインアーク設立。代表取締役に就任。03年7月、低消費電力の携帯機器用LSIを設計。早ければ1年程度で実用化できるという。