「人間は感情の生き物。たとえば、手振りや声の抑揚などの感情表現を“理解”するユーザーインターフェース(UI)なら、人間との相性は格段に高まる」と、次世代UIを研究する五十嵐氏は考える。文字コマンドを基盤としたアーキテクチャそのものを見直そうという発想だ。「昔は、多くの時間がコンピュータの計算作業に費やされた。今は逆転し、人間の入力時間の比率が高まり、コンピュータの待ち時間は増えるばかり。この点を変えれば、快適性と生産性が劇的に高まる」
「いくら入力画面が視覚的になっても、所詮は文字コマンドを絵柄に置き換えているだけ。タブレットや音声入力でも、最終的にはペンや音声を文字コマンドとして認識する。これでは限界がある」「IT産業が、巨大な市場を手に入れたいと考えるなら、この部分に着目すべき。UI変革は、シニア層や低年齢層の市場開拓、あるいは、生産性向上の点で、企業に大きなプラスをもたらす」
UI変革を実現するには、今のコンピュータを根本から設計し直す必要がある。これは、コンピュータ史を変える一大革命に発展する可能性すらある。IT産業の世界的な勢力図が変わる。「個々の研究は学術的なものばかりだが、全体を通じてUIの未来像を社会に示したい ITが抱える根本的問題に真正面から立ち向かう若き研究者である。
プロフィール
五十嵐 健夫
(いがら したけお)1973年、神奈川県生まれ。00年、東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻。工学博士号を取得。同年、米ブラウン大学博士研究員。02年3月から現職。01年、02年と3次元グラフィックス分野で情報処理振興事業協会(IPA)未踏ソフト創造事業の採択を受ける。天才プログラマー・スーパークリエータ級と認定。タイトーのゲームソフト「ラクガキ王国」や、イーフロンティアの描画ソフト「マジカルスケッチ」に技術提供するなど産学協業にも取り組む。