神奈川県大和市情報政策課チーフから学究の道へ。「出たり入ったりがありますが、トータルで17年の役人生活でした」。もともとIT化が直接の仕事ではなかった。市職員をいったん辞めて入った筑波大学大学院では、都市計画、つまりマスタープランを研究した。
情報政策に関わるようになったのは、インターネットの普及がきっかけ。「94年に慶応義塾大学SFCでインターネットに触れ、これはすごい、と思ったのが始まり」という。ブラウザが「モザイク」だったというから筋金入りだ。
「インターネットで米国の自治体のサイトを見ていた。インターネットで情報公開する自治体がどんどん増えていく。住民の意見も取り入れられていく。これはすごいことが起きる、と直感した」
大和市で職員のパソコン教室を始め、インターネットを使い始めたのはその直後。しかし、部外者にはなかなか理解できない役所ならではの壁もあった。「インターネットで市民の声を集めやすくなる。しかし行政の中には、余計な情報は聞かないほうが良いという習慣がある」。役所内での様々な軋轢から、職員にパソコン利用、インターネットを使った情報発信をあきらめようと思ったこともある。
自治体のIT化が着々と進みつつある。その一方で、地域の商店街の衰退や市民の高齢化といった問題も広がっている。「IT化はゴールではなく通過点」でしかない。
プロフィール
小林 隆
(こばやし たかし)1962年東京都生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程後期課程修了。神奈川県大和市情報政策課チーフ。2004年4月から東海大学政治経済学部政治学科講師、慶応義塾大学SFC研究所所員。経済産業省「情報家電の市場化戦略に関する研究会基本戦略WG」委員、日本建築学会情報社会デザイン小委員会委員。