「これ、いいでしょう──」
今年7月に就任した3代目ヒサゴ社長は、机の上に並べた何十種類ものラベルを前にして生き生きと熱心に語りかける。
「よく見てくださいよ。プリンタ内で紙詰まりしないよう極限まで凹凸をなくしたミシン目は、50枚重ねても手できれいに切れます。実際にちょっと手で切ってみてください」。ラベルの話はいつまでも尽きない。
ミシン目や折り目、糊づけ、紙の厚さ、素材をとことん追求できるのは専業メーカーならではの技術力があってこそだ。そのうえで「使う人の作業が少しでもスムーズになるよう細部までこだわって作り込んだ」。
主力だったドットインパクトプリンタ用の帳票需要が減り、代わりに普通のプリンタで帳票印刷を行う企業が増えた。
「どんなに時代が変わっても紙のよさは変わらない。これをどう商品に生かせるのかに成否がかかっている」と考える。
一度はがすと二度とくっつかない“目隠しラベル”は個人情報保護法の施行をきっかけに大ヒット。透かしや原本を判別できるアイデア帳票を多数投入することで、「帳票の高付加価値化」を推進する。
70年近い社歴をもつヒサゴ。戦中戦後の混乱のなかで祖父が事業を立ち上げ、父の代で国内有数の帳票メーカーに育て上げた。
「自分にはゼロから何かを立ち上げる実力はまだないが、既存事業をベースとして時代の要請に応える新しい商品を創りあげることはできる」と宣言する。
プロフィール
山尾 裕一
(やまお ゆういち)1971年、東京生まれ。96年、東京理科大学理工学部卒業、同年実父が経営する帳票メーカー・ヒサゴ入社。99年取締役副社長。06年7月1日、3代目の代表取締役社長に就任。