業界屈指の女性マーケッターである。
1998年、IBMが総力をあげて開発したウェブアプリケーションサーバー「ウェブスフィア」のマーケティングを成功させた立役者の1人。その手腕が買われてマクロメディアと合併した新生アドビシステムズのマーケティング本部長に抜擢された。
だが、最初からマーケッターではなかった。日本IBMに入社して4年ほどはOAの指導員を務めた。その後はSE。「深夜にお客さんから呼び出され、不具合を起こしたシステムを直しに出かけた」こともしばしばあった。
現場に張りついて10年余り。転機が訪れたのはIBMのウェブ戦略のカギを握るウェブスフィアを市場投入するとき。「わたしが売る」と手をあげた。チャンス到来を直感したからだが、どんなコンセプトで売り出すのか、販路はどうするのか、「分からないまま苦労を重ねた。最初に売れた価格は12万7200円。今でも忘れられない。マーケティングのおもしろさが徐々に理解できた」。現場を知り尽くしていることも自信につながった。
「もっと成長したい」と考えたときに、アドビとマクロメディアの合併を知る。「特性の違う2社の製品をどう組み合わせて市場に訴えるのか。マーケッターとして成長するチャンスを見過ごす手はない」と考え、19年近く勤めた日本IBMから転職を決意。
直後、ウェブスフィアの宿敵「ウェブロジック」の日本BEAシステムズ社長だったギャレット・イルグ氏がアドビ社長に就いた。かつての敵は今日の友。「巡り合わせの妙」に思わず苦笑い。
「プロフェッショナルとして成長するのに今の仕事は大きなプラス」。敏腕マーケッターは、足を止めようとはしない。
プロフィール
伊藤 かつら
(いとう かつら)1964年、東京生まれ。87年、早稲田大学教育学部卒業。同年、日本IBMに入社。98年、IBMが力を入れて開発したウェブアプリケーションサーバー「ウェブスフィア」のマーケティングに参画。05年12月、19年近く勤めた日本IBMからアドビシステムズに転職。現在に至る。