松下幸之助にあこがれていた。電気関係のさまざまなものを作りたいと日本工学院の電子工学部に入学し、回路設計などを学んだ。卒業後入社した日本コロムビアで、電卓の技術開発に従事。だが、製品の売り上げ不振により2年で事業部が閉鎖になった。閉鎖されると分かった時、「つまらなくなってしまった」ため退職を決めた。自動計測・制御機器などを主力とする木梨電機製作所で1年間、ハードや回路の開発に携わった。
「中学、高校のころから起業願望を持っていた」。しかし「ハードは『口ではいえない』ほど難しい代物。1人前になるには10年以上勉強する必要がある」。独立するのに長い時間を要するハードより、何時間作業してもあきない、楽しいと思えることを仕事にしたいと、たどり着いたのがソフト開発だった。
起業してから24年が経つ。長い間、システムインテグレーション事業を続けてきたが、パッケージソフトの開発・販売事業にも参入。2005年には情報漏えい防止ソフト「トータルセキュリティフォート」を発売した。
「8時間拘束を意識して、時間の範囲内で働くならば、ソフト開発なんてしないほうがいい」と考える野尻社長。日曜日も出勤するため、趣味のチェスに費やせる時間は週1日程度。「最近は忙しくてだめ」というが、国内外の大会に出場し続けている。チェス協会のボランティアとして、チェス教室のインストラクターや大会運営のサポートまでこなす。「チェスは『芸術』でもあるし『学術』でもある。論理的なゲームだからこそ研究する必要がある」。
勉強して、研究することはソフト開発にもチェスにも共通している。「これからも歳に関係なく、好きなことを続けていきたい」。
プロフィール
野尻 泰正
(のじり やすまさ)1947年、東京都生まれ。69年3月、日本工学院電子工学部卒業。同年4月、日本コロムビアに入社。1971年2月、木梨電機製作所に転職。1983年8月、株式会社シーピーアイを設立し代表取締役に就任。システムインテグレーションを請け負うかたわら、海外セキュリティ製品の販売、オリジナルソフトの開発に注力している。趣味はチェス。国内外の大会で活躍している。