1998年、川上尚之はウイルス対策ソフトの運用サポート・トラブル解決の専門会社を立ち上げた。ソフトを販売する企業は無数に存在するが、納入後のサポートというニッチな分野だけをビジネスにする企業は珍しい。売上高は7億円(今年度見込み)と小規模だが、経常利益率はほぼ10%の水準を稼いでいる。ユーザーは創業から10年を経て500社を超えた。
20代半ばでオフコン、30代でウイルス対策ソフトの営業職に携わった。その間にビジネスのヒントも得たようだ。
ベンダーの営業は、販売したら新たなお客をつかまえることに目がいきがちになる。だが、ユーザーは品質や機能と同じくらいのレベルで、買った後のサポートを重要視している。このギャップはビジネスになると信じ、4-5人の仲間とともに起業に踏み切った。
500社のユーザーはほとんどが大企業。知名度、信用力に乏しいベンチャーが入り込めるほど敷居は低くない。だが、自身が前職で顧客から得た信頼で食い込み、競合も存在しなかったことが幸いして、軌道に乗るまでにそれほど時間は要しなかった。営業しなくても企業から「お宅のサービスを導入したい」と引き合いがくることもあった。
起業意欲が強かったのは20代までで、経営者になるのが目的で独立したわけではない。お客に接して商談をまとめる現場がとにかく大好きで、「できるならサラリーマンに戻りたい、かな」と冗談交じりに笑顔を見せる。経営トップの椅子は、本人には多少窮屈そうだが、新しいサービスのリリースが控えており、その準備に今は奔走中。詳細は語らないが、売り手と買い手のギャップを埋めるサービスを考えているはずだ。(文中敬称略)
プロフィール
(かわかみ なおゆき)■岡山県出身。大学中退後、システム開発会社に入社。オフィスコンピュータの営業業務に従事。セキュリティの重要性を感じ、ウイルス対策ソフトメーカーに転職。1998年、アイ・オー・エス(IOS)を立ち上げ代表取締役に就任。IOSはシマンテック、トレンドマイクロ、マカフィーのセキュリティソフト納入企業に対し、運用中のトラブル解決などサポートサービスを提供するビジネスがメイン。ネットワーク通信監視の「NRMS」なども商品化している。