八王子市と八王子商工会議所の共同出資で1970年に設立された八王子情報センター。受託開発を主力とする同社は、経営不振に陥った時期がある。赤字を打破するため、SIerの小田原電算(現・サンネット)が資本参加した。同社の社員が送り込まれ、資本参加後、約2年で累積赤字を解消。結果的に、業績は回復軌道に乗った。
ただ、課題として残ったのは、受託開発から抜け切れないことだった。黒字に回復したものの、人員縮小などによるコスト削減が利益確保の手段だった。親会社の小田原電算は、「事業拡大を図るためには、ユーザー企業を取引先として確保することが重要」と判断。その結果、谷澤敏治が営業責任者に抜擢されたのである。
谷澤は小田原電子計算センター(小田原電算の前身)に入社以来、技術畑で業務に従事していた。八王子情報センターへ転籍して営業に携わるよう会社から告げられた時、「正直、思いもよらなかった」と振り返る。「とにかく取引先になってもらうため、がむしゃらに企業を回った」。その努力が実を結び、転籍後4か月で大手製造業をユーザー企業として獲得した。新規顧客を開拓するため、「3年間で1000社以上は訪問した」という。ユーザー企業数は大手を中心に7社に達した。
自社でユーザーを確保しているため、「今は、人員を増やしながら利益拡大を実現できる企業体質になった」と自信をみせる。人員は、転籍当初の18人から40人程度にまで増員している。また、技術者の谷澤が営業として企業を訪問して「予算に応じて構築可能なシステムを商談できるのは技術者なのではないか」と考えている。そのため、技術者による全社営業の実現に向け、人材育成に積極的だ。また、「“幹”である本業のシステム開発から派生した“枝葉”の部分を提供したい」。新しいビジネスモデルの創造に余念がない。(文中敬称略)
プロフィール
谷澤 敏治
(やざわ としはる)1962年1月1日生まれ。神奈川県出身。日本大学理工学部数学科を卒業後、84年4月に小田原電子計算センター(現・サンネット)に入社。プログラマ、SE、プロジェクトマネージャーとして開発に従事する。05年8月、サンネットが資本参加した八王子情報センターに転籍。営業に携わる。09年5月、代表取締役社長に就任。現在に至る。