中国に本社を置くソフトウェアメーカーのキングソフトで新しいビジネスの立ち上げを担当する堂前泰志は、組み立てブロックの「レゴ」をイメージしたデザインの手帳を携えている。
もともとコンシューマ向けの展開に強いキングソフトは、今、法人事業の強化に取り組んでおり、企業向けの注力商材として、オンラインストレージサービスの「KDrive for Business」を、2011年末に発売した。社長室に所属する堂前は、「KDrive for Business」の開発やプロモーション、販売パートナーへの提案など、ここ数か月、新規事業の立ち上げのすべてを指揮してきた。レゴのブロックを一個ずつ積み上げておもちゃの家をつくるように、日本の顧客のニーズをヒアリングし、中国にある開発部隊に丁寧に伝えて、ユーザーの要望をきめ細かく反映したサービスを実現したのだ。
堂前は、長年、ベンチャーキャピタルで投資する側の経験を積んできた。リーマン・ショックによる景気の低迷を目の当たりにして、「ベンチャーキャピタルではもうアグレッシブに仕事することができない」と考えて、2010年、活気溢れる中国と太いパイプをもつキングソフトに入社した。ベンチャーキャピタル時代の失敗から学び、「とにかく、まっとうに働く」ことを心がけているそうだ。
「KDrive for Business」を立ち上げる過程で、堂前はさまざまな壁にぶつかった。タイトな開発期間で、顧客ニーズをきちんと反映することの難しさ。販売パートナーを獲得する苦労。しかし、新規事業を無事に立ち上げることができた今は、「大きな達成感を味わっている」という。着実な努力が実り、「まるでレゴの家が完成したような気分だ」と、満足げだ。(文中敬称略)
プロフィール
(どうぜん やすし)2002年、大学卒業後、ベンチャー投資を手がける「日本アジア投資」に入社。社外取締役として、数社のベンチャー企業の経営活動を支援する。2010年、キングソフトに入社。社長室のメンバーとして、新規事業の立ち上げやプロジェクトのオペレーションなどの業務に携わる。