中学生のときに人馬(車)一体となってサーキットを駆け抜ける自動車レースのF1に魅了され、自動車業界に足を踏み入れる。自動車部品メーカーの生産技術者を経て、今は富士ソフトグループで公差管理ツール「CETOL6σ(シーイートールシックスシグマ)」を開発するサイバネットシステムで公差管理の専門家としてキャリアを伸ばしている。
「公差」とは、設計するうえで許容される寸法の差異のことで、公差の値を必要以上に少なくすると歩留まりが悪くなってコストがかさみ、その逆だと品質が保てない。
萩原があるメーカー向けの導入支援を担当したときだった。「CETOL6σ」の手本を示したところ、このメーカーの生産技術者は“熟練のカン”で「何か違う」と言う。このユーザーとともに夜を徹して検証したところ、結論は「お客さんの方が正しかった」。萩原にとっては“渾身の設定”で臨んだつもりが、結果的に間違っていた。
「あのときは自分の仕事の基本みたいなものを否定されて辛かった」。科学的アプローチを売りにしている公差ツールの専門家が、ユーザーの直感で否定されてしまっては立つ瀬がない。原因はユーザーの図面や製品についての聞き込みが不十分だったためだ。
F1レースの人馬一体の勇姿は、公差ツールのような科学的アプローチとドライバーやエンジニアの情熱が合わさったところに本質がある。公差管理を通じて得られるさまざまなメーカーの熱い思いをもった生産技術者らとの交流は、「どこかでF1レースに通じている」と、技術者魂を輝かせる。(文中敬称略)
プロフィール
萩原 あづみ
萩原 あづみ(はぎわら あづみ)
1978年、東京都生まれ。01年、芝浦工業大学工学部機械工学第二学科(現:機械機能工学科)卒業。同年、自動車部品メーカーに入社。エンジン部品の加工・組立工程の生産技術業務および公差解析・構造解析業務に従事。06年、サイバネットシステムに入社。公差解析ツール「CETOL6σ」のアプリケーションエンジニア。共著に『めざせ!最適設計 実践・公差解析』(日刊工業新聞社、2013年)