「最初は生命保険会社で営業企画、その後はゲーム会社でコンテンツ制作を……」。デジタルサイネージのベンチャー・Will Smartの和田幸平に経歴をたずねると、現在の仕事から想像できないキャリアが次々飛び出した。
しかし、「企画」が生業という部分は一貫している。「役に立つものや、人を楽しませるアイデアを考えるのが昔から好きかもしれない」と振り返る。保険会社時代は、顧客企業の若手社員を対象にした合同コンパ(合コン)も企画した。出会いを求める若者たちにきっかけを提供しつつ、後日、保険外交員が参加者にこっそり「この間の、どうだった?」と聞いて回る。外交員が社内の人間関係を把握することで、営業活動が円滑になるし、カップルが生まれれば人生設計の話もより具体的にできる。オフィスへの立入りが難しい今は使えない手法だが、単なる保険勧誘よりやりがいがあったのか、外交員も合コンのセッティングには積極的に取り組んでくれた。
ゼンリンデータコムに入社後、出張で訪れた韓国・ソウル。商業施設のなかでハングルが読めず道に迷ったが、近くに設置されていたタッチ式ディスプレイに、多言語対応の館内地図が出ていたので難を逃れた。「サイネージ機器はなかなか触ってもらえないが、ゼンリングループが得意とする地図と組み合わせれば、多くの人に利用してもらえるに違いない」。“企画屋”の食指が動いた。
帰国後、社長に直談判してデジタルサイネージを事業化。その後独立にまでこぎつけた。急成長というわけにはいかなかったが、スマートフォンと連動する大型ディスプレイ「デカスマホ」が好評を得た。この製品で食いつないでいる間に、外国人旅行者は急増し、東京五輪の開催も決定。企画に加え、経営でも大きくステップアップできるチャンスが到来したようだ。(文中敬称略)
プロフィール
和田 幸平
和田 幸平(わだ こうへい)
東京都出身。生命保険会社での営業企画、ゲームメーカーでの企画、印刷会社傘下でのコンテンツ企画・ディレクションなどに携わる。ゼンリンデータコムでデジタルサイネージを新規事業として立ち上げ、2012年に同社の出資を受けてWill Smartを設立、代表取締役に就任する。