国内企業の「生産性」を鈍らせた元凶ともいわれる「レガシーシステム」。本紙の聞き取り調査によると、このうちオフィスコンピュータ(オフコン)だけで約6万台が現存する。これらの「使い勝手」を捨てきれず、世界に比べ「オープン化」に遅れをとった。しかし、ここへきて内部統制強化や事業継続が企業の喫緊の課題となり、さらには不況の波を受けてコスト削減が大きなテーマとなっている。こうした背景から、「レガシー・マイグレーション」を求める企業が増大しており、かつての旧オフコンディーラーである販売系SIerは、“入れ替え”ソリューションを推進し、新たなビジネスに結びつける動きが活発化している。
レガシー・マイグレーションとは?
今回の特集で定義するレガシーシステムは、オフィスコンピュータ(オフコン)、メインフレーム、UNIXのほか、初期の「Windows Server」OSで動き、基幹システムで多く採用され、リース料や保守料、ソフトウェアライセンス料が高額でシステム連携性に乏しいシステムをさす。これらのマイグレーションとしては、既存言語をそのままに再度高性能のレガシーへの移行や並行稼働して一部をオープン化するなど、ユーザー企業の要望に応じさまざまな方法が用いられており、単純に「オープン化」することだけが「レガシー・マイグレーション」ではないことを前提とする。
オフコン現存、まだ6万台
オープン化ニーズ、今が旬 国内のオフィスコンピュータ(オフコン)は、1980~90年代に中小企業を中心に財務会計や給与計算、販売管理などの業務処理用として普及した。当時、日本では世界に先駆けて企業への浸透が迅速に進んだ。しかし、このことが逆にIT利活用を不活発にさせ、世界に比べて生産性が劣る要因にもなっている。
オフコンを早期に導入した企業に対し、当時のSIerは1985年の「Windows」発売を受け、「ビッグバン」方式などで一斉にオープン化提案へと舵を切る。しかし、いったんはオープンシステムを導入したものの、オフコンに比べて使い勝手が悪かった。そのため、企業の多くが「タンスにしまったオフコンを再利用」することになり、オープン化が遅れてIT利活用が低調に推移したのだ。
本紙が当時“御三家”と称された日本IBM、富士通、NECの有力旧オフコンディーラーに聞き取り調査をし集計すると、この3社で約5万3000台が現存していた。東芝や三菱電機などのオフコンを含めれば6万台近くが残っているとみられる。オフコンやメインフレーム(汎用機)、UNIXに代表される「レガシーシステム」は、安定性・信頼性がある反面、運用・保守、システム改変などに多大なコストを必要とする。運用・保守費だけでIT投資の7割近くを占め、新規IT投資を鈍らせた。また、他のシステムとの連携性が劣り、ましてや安価なSaaS・クラウドサービスなど、Webサービスのアプリケーションを導入することなどはできない。
不況の真っ只中、企業の多くではコスト削減が大きなテーマになっているほか、事業継続や内部統制強化など社会的な課題に立ち向かうため、「レガシー・マイグレーション」を選択するケースがここにきて増加傾向にあるのだ。
オープンのアレルギーを取り除く 旧オフコンディーラーの御三家によれば、中堅上位から大企業に導入された「レガシーシステム」の入れ替えは「一巡した」とみられる。残るは、IT担当者が不足する中堅・中小企業。ところが、こうした企業には「オープン化に対するアレルギー」があり、導入したオフコンなどが高性能であるほど、その「使い勝手」に慣れていて、なかなか手放さない傾向がある。
オフコンを売りさばいた旧オフコンディーラーで現在の販売系SIerは、こうしたシビアな企業に対処すべく、改変が急務な部分を段階的に切り出し、オフコンを並行稼働させ、オープン化やアウトソーシング、仮想化技術を利用したシステムという形で「ケア」し、結果としてこれが大きな需要を生み始めている。
オフコンの言語である「COBOL」を扱う人材が途絶えつつあることも要因だが、社会的な要請がオープン化の道を開かせている。
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「日本IBM」
オフコン後継機が価格下落
VADが足かせに?
日本IBMは、かつてはオフコンに分類されることが多かった「AS/400シリーズ」や、その後継機である「iシリーズ」のユーザーを、最新機種の「Power Systems(パワーシステムズ)」にマイグレーションすることに力を注ぐ。オフコン全盛期にヒットした「AS/400」用のOSや同社独自のプログラム言語「RPG(Report Program Generator)」を使って開発された業務アプリケーションの受け皿を段階的に用意。「ユーザー企業のソフトウェア資産を守る」ことを標榜し、既存顧客との関係維持に努めている。
一方で、十分な収益が見込めないパソコンやプリンタなどのハードウェア事業を他社へ事業売却するといったように、「脱ハード」を推進。サーバー領域でも「iシリーズ」と、UNIXサーバーの「pシリーズ」を「Power Systems」に一本化するなど、ラインアップを削減。2008年末までの約10年間、日本IBMのトップを務めた大歳卓麻・前社長によれば、就任時の1999年に売上高全体に占める「ハード販売の比率が43%ほどあったが、直近は13%まで減った」と、ソフト・サービスに比重を傾けたことを自らの功績としている。
同社の流通施策では、IBM製のハードやミドルウェアを主に扱う系列ディストリビュータ「VAD(付加価値ディストリビュータ)」を組織し、主にこのチャネルを経由して販売パートナーに製品を供給する体制へと移行してきた。VADはパソコンやプリンタ、通信機器などIBMの製品群だけではカバーできない部分を他社から調達。情報システムに必要な商材をワンストップで提供する体制を整えてきた。
日本IBM本体はソフト・サービスへの比重を高めたが、前述のようにVAD経由で中堅・中小企業向けの「レガシー・マイグレーション」を担うべきビジネスパートナー(BP)からの反応は意外にも渋い。VADを中間に挟むことで、日本IBMと販売パートナーとの関係が希薄化。IBM製品の取扱い量を減らすパートナーが増えかねない状況となっている。
ブレードサーバーをはじめとするPCサーバーの高機能化と低価格化によって、旧iシリーズ、旧pシリーズの後継機種である「Power Systems」の価格も「下落傾向にある」(旧iシリーズの大手販売パートナーの日本ビジネスコンピューター)状況だ。ユーザー企業にとっては、Powerへのマイグレーションの敷居が下がるメリットがある。ただ、「流通=売り手」のBPにとっては、金額ベースのボリューム圧縮につながり、IBM独自のアーキテクチャ製品を販売するメリットが薄れる。日本IBM系の主要な旧オフコンディーラーは、Powerの拡販に前向きに取り組むものの、以前ほど積極的でない印象で、一部でブレードサーバーやPCサーバーなどIA系へのマイグレーションを推奨する動きも出てきている。
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「富士通」
“塩漬け”オフコンを狙う
部分切り出しから全体最適へ
富士通系列における最大のSE子会社で、首都圏エリアを管轄する富士通システムソリューションズ(Fsol)は、5年前から「レガシー・マイグレーション」を中核のSI(システム構築)事業として積極展開している。富士通製オフコンは全国に約1万8000台が現存。うち首都圏で約2000台が残る。Fsolは富士通系列のオフコンディーラーが拡販し、“塩漬け”状態になっているオフコンやメインフレーム、UNIX、オープン系でも長年未使用の旧システムをマイグレーションし、年々その実績を伸ばしている。
「レガシー・マイグレーション」といえば、以前は旧システムを捨てて一から作り直す「ビッグバン」開発が多くみられた。だが、初期投資や開発中の並行運用に必要な費用が発生し、システム稼働まで長時間を要するネックがあった。Fsolの立花隆夫・経営執行役が言う通り「現存オフコンは中堅・中小企業に多い」ため、IT投資余力に乏しく、しかもきちんとしたIT担当者がいない企業が顧客となっている。
Fsolが志向する「レガシー・マイグレーション」手法(図参照)について立花・経営執行役は、「どんな置き換え方をするのがユーザー企業の規模や条件に照らして最も投資対効果を生むかを検討し、部分最適から全体最適に段階的な提案をしている」と説明する。同社のマイグレーション手法は競合他社と似ているが、ここへきてアウトソーシングのウエートが大きくなっているようだ。アウトソーシングはユーザー企業のシステムを「預かる」ため、オフコンがそうであったように次のストックになるためだ。
競合他社と異なる取り組みとして、Fsolは「CPU能力変動型アウトソーシングサービス」を展開中だ。今後のシステム利用計画に合わせ、繁忙期と通常期の変動に応じて必要な分(CPU)をホスティング提供。「システム統合や将来拡張など全体方針が不明でIT担当者が不足するユーザー企業にとって、CPUにかかる保守料を減らす効果がある」(立花・経営執行役)。このコスト削減分をユーザー企業が新規IT投資に回すことも期待できる。 富士通製オフコンに限らず、保守契約が切れ、しかもユーザー企業内に「COBOL」言語を扱える人材が途絶えた“塩漬け”のオフコンが数多く現存。このマイグレーションをしているが、他社製オフコンを保有するユーザー企業からの要請も舞い込む。「電気代を含めたコスト削減策を提案したり、仮想化環境を構築してサービス型のアプリケーションが使えることを訴えて、案件を獲得していく」(立花・経営執行役)方針だ。
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