【解決策】
早期に事業着手するための策は?
NGN熟知のベンダー利用へ
現状でNGNに課題があるとはいえ、今後もNTTグループが設備投資の計画を立てていることから、近い将来には技術面で問題が起こらない強固なネットワークが構築される可能性は高い。そこで、事業の早期着手を模索するベンダー向けに解決策を探ってみた。
解決策その1
NECの
「NGNミドルウェアパートナープログラム」
共通APIの策定を進める NECでは、「NGNミドルウェアパートナープログラム」を昨年3月に立ち上げ、ISVを中心にプログラムへの参加促進に力を注いでいる。プログラム参加数は、設立当初に10社程度だったものの、現段階では17社に増えている状況だ。
同プログラムは、参加企業にAPIを公開し、NGN関連のアプリケーションを開発することが狙い。テレコムウェブサービスの標準的なAPIに位置づけられている「Paralay X」をベースとして、呼制御/メディア制御、プレゼンス、QoS、課金決済、メール、デバイス情報制御などを提供するほか、法人市場で要求が高まっている機能などのAPI化をプログラム内で模索していく。プログラム運営を担当するNECの三栖利之・次世代ネットワークサービス推進センター長は、「当社はNGNの事業領域において、実績と技術、ノウハウなどを持っている。ISVとのパートナーシップで、NGNを活用したサービス創出を加速していく」とアピールする。
プログラムで模索したAPIのNGN仕様として標準化することにも取り組んでいる。昨年9月には、プログラム参加企業と共同でAPI仕様第1版を策定。その仕様には、呼制御一斉処理や課金情報拡張、リスト型呼処理、アドレス管理拡張、通信記録などを取り入れた。実際にアプリケーションがNGNで活用できるかどうかを検証する評価センターをNECがプログラム参加企業に開放することで、商用化する動きも進めている。
三栖センター長は、「ITとネットワーク技術を持つ当社が中心となって、パートナーとともにNGNサービス市場の創造に寄与していく」と意欲を燃やしている。未知の世界であるNGNで、1メーカーに固執してパートナーシップを組むことはビジネスを着手していくうえで、リスクがともなう恐れがある。しかし、詳細なAPIが公開されることでアプリケーション開発が早期に実現できる点は、ベンダーにとって大きなメリットといえそうだ。
解決策その2
NTTグループ会社との協業
PaaS連携でNGN提供を可能に NTT本体がNGNを活用してビジネスチャンスをつかもうとするベンダーに対して冷ややかな態度を取っている状況のなか、早期にビジネスに着手するのであれば、NTTグループ会社と協業するのも一つの策になるのではないか。NTTコミュニケーションズは、SaaS事業の拡大に力を注いでおり、PaaS連携を図りたいという姿勢をみせている。
NTTコミュニケーションズがSaaS環境の「BizCITY for SaaS Provider」で最も重視しているのはアプリケーションサービスの拡充だ。現段階で、16種類のアプリケーションサービスを揃えている。今年に入ってからは「MIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム)」との協業を実現。共同で技術面や事業面での検証を進めている。そのため、「アプリケーションに関しては、一段と増えていくことが確実」(中山幹公・ブロードバンドIP事業部マーケティング部担当部長)と自信を示している。
アプリケーションが拡充した段階でSaaS事業がさらに拡大することになるわけだが、課題として挙がっているのが販売網。現段階では、アプリケーションベンダーの販売代理店経由でユーザー企業に提供している。ところがアプリケーションベンダーにとっては、SaaSサービスが提供できるようになることで期待しているのは新規顧客の開拓。新しい販売代理店を獲得したいところだ。一方、NTTコミュニケーションズはアプリケーションベンダーが求めるベンダーを販売代理店に確保していない状況。それならば、PaaSを提供するベンダーと組んで、「さまざまなプラットフォームから提供できるような環境を構築していきたい」考えを示す。
現段階では、同じグループ会社であるNTTデータのPaaSとNGNを絡めて連携を果たしている。PaaSベンダーにとっては、NTTコミュニケーションズと組むことでNGN環境化でのSaaS提供ができるようになるわけだ。
【可能性】
課題あるが先行優位に
チャンス獲得に期待
技術的な面やNTTの態度などに不満は残るものの、他社に先行してNGNビジネスを手がけられれば、優位に立てる可能性はある。そのため、ユーザー企業への提供で大きなチャンスをつかむことを期待するSIerやISVも少なくない。
可能性その1
NGNインフラ構築を生かす
ノウハウをDC事業に生かす 現在、NGN関連でSIerやネットワーク系ベンダーなどがビジネスとして成り立っているのは、NTTへのネットワークインフラに限られているのが実状だ。その案件に参加していないベンダーは、もどかしさで一杯といえるが、参加ベンダーにとっては、次世代データセンター(DC)のインフラ構築につなげるなど次のステップを視野に入れているケースがある。
ネットワンシステムズでは、NGN関連ビジネスが好調で、昨年度(09年3月期)の売上高が1311億1900万円(前年度比17.4%増)と大幅に増加。NTT案件が含まれるSP(サービスプロバイダ)事業は、売上高が621億7700万円(同33.4%増)を記録した。
吉野孝行社長は、「当面は、NGNで食わせてもらう」考えを示している。ただ、同社がビジネス拡大で想定するのはNTT案件だけでなく「次世代を謳ったDCへのインフラ提案」。ISPなどのDCに関しては、NGNのノウハウが効果をもたらす。しかも、「ネットワークインフラの構築だけでなく、サービスも含めた展開が行える」としており、既存のNIモデルから脱皮し、アプリケーションを網羅したビジネスを手がけていく。
ネットワーク機器メーカーのジュニパーネットワークスでは、「通信環境の変革」をNGNと位置づけ、「NGN環境では、セキュリティ面でネットワーク網に取り込まれるものと、差別化要因として業種で装備するものと二分化していく。そのため、さまざまなデバイスのセキュリティに対応していくことが重要」(佐宗大介・マーケティング本部サービスプロバイダーマーケティングマネージャー)としている。同社は、分散企業向けサービスゲートウェイである「SRX」シリーズを市場投入。ハイエンドモデルをSP向けネットワーク網に配置し、その成果を生かしローエンドモデルをユーザー企業に提案していく。
可能性その2
ネット利用が差別化に
プラスアルファの提案を実現 中堅・中小企業向け業務アプリケーションを開発・販売するベンダーのうち、特にNGNの商用開始に期待を抱いているのがオービックビジネスコンサルタント(OBC)だ。同社の日野和麻呂・開発本部OTECグループ・グループリーダーは「(会計ソフトウェアなど)スタンドアローン製品は、一定の満足度を得ている。いま以上に、顧客の満足度を引き上げるには、プラスアルファの提案が必要になる」と、これまで以上に帯域が拡大するNGN環境が整うことで、既存のネットワークサービスをもっと拡充できると期待する。
現在、OBCでは、NGNの到来を見越し、「奉行アップデートサービス」を実施中だ。従来、CD-ROMを各顧客に配布し更新事項を提供していたが、これをインターネット上で実現している。
こうしたサービスを拡充することで、顧客側では迅速で簡単な対応が可能になり、ベンダー側もCD-ROMやパッケージ(箱)制作費が削減できるうえに郵送費も不要になるというメリットを享受できるのだ。「NGNが浸透すれば、ネット上のサービスが差別化の重要な要素になる」(日野リーダー)と、積極的に策を講じている。
ただ、顧客のシステムをNGN環境に移行する前提として、顧客サイドの課題が多い。SaaSを業界先駆的に開始しているピー・シー・エー(PCA)は「当社のSaaSを導入してもらう際、光回線を使うことを推奨している。ただ、光回線が届かない地域の顧客も多い。NGNに行く前に、例えばVPNを導入することなどを薦め、WAN環境を使うことがようやく認知されたばかり」(篠崎洋介・戦略企画部企業課課長代理)と、顧客側に対しNGNが売り文句にならないばかりか、現状の回線環境で特段の問題は発生していないという。
業務アプリケーションをNGN環境で使うには、「技術的な課題は少ないが、強いて挙げるならばVPNを標準化してほしい」と、OBCの日野リーダーは語る。さまざま条件が整えば、両社ともNGNに期待するスタンスは同じだ。