クラウド時代、他社に先行する
新ビジネスモデルの創造を模索 クラウド時代を見据えたワールドワイド規模でのメーカーの合従連衡や再編などに伴い、国内販社では競合他社に先行した事業への着手や新しいビジネスモデルの創造などを模索する動きが出始めている。クラウド関連の案件をいち早く獲得することに力を注ぐとともに、販社同士の連携で日本市場での標準化を目指すなどといった取り組みが進んでいる。卸では、セキュリティが好調のようだ。国内販社にも、新しい時代が到来しつつあるなかで主導権を握ろうと躍起になっている姿が浮き彫りになってきた。主要なネットワーク系インテグレータやディストリビュータのビジネスを追う。
インテグレータ編
ネットマークス
最先端の製品に集中
次世代DCの事例をつくる  |
| 藍隆幸室長 |
ネットマークスは、ネットワーク関連事業でシスコ製品をベースに次世代DC向けのインフラ構築に商機があると判断し、最先端技術を駆使した製品やサービスの提供で早急に導入事例をつくろうとしている。物理的なネットワークインフラ構築を武器に、仮想化環境の構築までを網羅したインテグレーションでユーザー企業に多様な要望に応えていくというのが戦略だ。
現在、次世代DCの構築に向けてコンピュータ系に強いインテグレータとネットワーク系インテグレータが案件を獲得するため、しのぎを削っている。ただ、「インフラ構築はネットワーク系インテグレータのほうが有利」(藍隆幸・商品企画部商品企画室長)と断言する。「市場でサーバー仮想化が主流となり、現段階ではユーザー企業がストレージ仮想化も視野に入れ始めている。次に来るのがネットワークの仮想化。実際、問い合わせが増えている」(高木経夫氏)という。ネットワーク仮想化は、複雑化するネットワーク運用の負荷を軽減させる構築手法の一つで、サーバー周りのケーブルを減らすことによって柔軟で自律的な運用を実現することが利点となる。
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| 高木経夫氏 |
ただ、ネットワークの仮想化は以前からあった技術で、これだけでは抜本的な他社との差異化にはつながらない。そこで、アプローチする際には「サーバーやストレージに加え、ネットワークも網羅したトータルな仮想化環境の構築に力を入れる」(高木氏)という。具体的に、製品面ではシスコ製の仮想化環境に対応したスイッチ「Nexus1000V」をベースに次世代DCを構築。また、同社はEMCジャパンやヴイエムウェアの販社でもあり、ワールドワイドでメーカーが掲げるビジョンを日本市場で果たせるインテグレータの1社として評価されている。
さらに、ブロケードコミュニケーションズシステムズとの販売契約を結んでおり、「ブロケードが進める(新プロトコルの)『FCoE』を使ったソリューションも展開していく」(藍室長)方針を示している。
ネットワンシステムズ
クラウド環境の標準化を目指す
アライアンスの会員が増加 オープンなクラウドサービス市場の創出に向けて「クラウド・ビジネス・アライアンス(CBA)」が今年11月に発足し、日本市場でクラウドサービスの標準化を目指している。メンバー数は発足当時は10社弱だったのが、今では30社弱に達している。設立に携わった企業の1社は、ネットワンシステムズだ。中心メンバーが大手ネットワーク系インテグレータであるだけに、CBAは日本市場で重要なアライアンスとして位置づけられる可能性が高い。
CBA発足の背景には、日本でクラウドサービスが予想に反して具体的な利用方法や構築手法などがみえていないということがある。「クラウドサービスが標準化されていないことが、普及が進まない原因だ」と指摘しているのが、ネットワンシステムズの澤田脩会長。一方で、次世代データセンター(DC)を中心にコンピュータやネットワークなどのインフラ構築が進んでおり、インテグレータにとってはシステム案件が増える環境にある。しかし、クラウドサービスを提供するために、こぞってDCを増強したとしても、利用者が増えなければ意味がない。結果、DCからリプレース案件が出てこない可能性もあり、インテグレータにとっては大きな痛手となる。そこで、「共通APIの開発」を試みようというのだ。
ビジネス継続に向けてクラウド事業者とのパートナーシップを深める狙いもあるようだ。最近では、大手メーカーを中心にPaaSの構築でクラウドサービスの本格化を急ぐ傾向が高まっていることから、インテグレータにとってはユーザー企業に対してハードウェアとソフトを組み合わせるインテグレーションのビジネス規模が縮小する危険性もある。共通APIで、クラウド・サービスを提供する事業者や、次世代DCを構築して自社内でクラウド・サービスを利用するユーザー企業にアプローチをかけ、インフラ構築とアプリケーション提供といった分野で確固たる地位を築くのがCBAの狙いである。
セキュリティ製品に需要あり
クラウド環境下でサービスもディストリビュータ編
クラウド時代が到来しつつあるなかで、ユーザー企業の注目を集めているのがセキュリティ分野。なかでも、仮想化環境下でのセキュリティに対して関心が高まっている。そのため、インテグレータ各社がセキュリティを切り口とした製品・サービスの提供に力を入れている。インテグレータに製品を卸すディストリビュータでは、「ネットワークセキュリティ」を切り口にビジネスが好調に推移しているという。今後も、同ビジネスの拡大を図る策を講じていく方針だ。
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CTCSP 渡辺裕介部長 |
シーティーシー・エスピー(CTCSP)は、今年度(10年3月期)4~12月までの9か月間、ネットワークセキュリティ関連の売上高が前年同期比10%増に達した。「不況でユーザー企業がIT投資を抑えているが、セキュリティに関しては整備しておかなければならないという意識が高まっている。万が一、トラブルが起こった場合のリスクやコストのほうが、遥かにダメージが大きいと認識しているからだ」(渡辺裕介・企画本部営業推進部長)という。
売れている製品は、フォーティネットのUTM(統合脅威管理)「FotiGate」やデジタルアーツのフィルタリングソフト「iFILTER」など。これらの製品に加え、「インテグレータがユーザー企業に製品を提供した後、当社から技術支援サポートを実施するというサイクルが確立しつつある」と、同社独自のサービスが奏功していることをアピールする。今後は、「クラウド時代に備え、ユーザー企業はシステムのマイグレーションすることになるだろう。(当社の販社である)インテグレータにとっては、手間がかかる可能性が高い。そこで、データ移行サービスの商品化を進める」。仮想化環境に向けたアセスメントをビジネスとして手がけることを計画している。
ネットワールドでは、物理環境から仮想環境を保護するネットワークセキュリティソリューションを検証、同社の販社であるインテグレータがユーザー企業に提供しやすいサポート体制を整えている。また、同社もフォーティネット製品の販売が好調。QoS(通信のサービス品質)管理については、ブレード・ネットワーク・テクノロジーズの仮想化対応10ギガ・イーサネットワークスイッチの拡販を重視する。
サーバーをはじめとして仮想化環境を求めるユーザー企業が増えており、1社あたりの導入単価は増える傾向にある。仮想化環境のセキュリティは、バーチャル・アプライアンスのようにハイパーバイザー上に仮想マシンの一つとして導入するタイプと、仮想環境に対応したネットワークセキュリティ機器の設置で、物理環境から仮想環境までを守る、といった二通りのアプローチが考えられる。クラウド環境を整備する点で、仮想環境に対応したセキュリティ製品にますます需要が出てくるといえ、ディストリビュータにとってはビジネスチャンスにつながる。
今後の展開は
スイッチやルータなど今までネットワーク関連の主力だった機器が、単価下落やコモディティ(日用品)化してから長い期間が過ぎた。そんななかで、ネットワーク関連製品のインテグレータやディストリビュータなどは各社それぞれに、あの手この手を使ってビジネス拡大を図ってきた。しかもクラウドという新しい潮流が出てきたため、「今までのビジネスモデルに、180度方向転換したビジネスモデルが加わる」というのが共通意見。現段階でも徐々に変わりつつある商流が、今後はさらに激変する可能性を秘めている。
また、クラウド時代の到来によってネットワーク系販社は、ITとネットワークを含めたインフラ全体の案件でユーザー企業との直接取引する「プライマリベンダー」としてのポジションを確保する可能性が高い。これまでITシステムを含めた案件は、SIerが案件を獲得していた。ネットワーク系販社は、“下請け”的な位置づけ。プライマリベンダーになれるのは、ネットワークインフラ構築だけをリプレースするといった案件のみというケースが多かった。次世代DC向けビジネスでは、ネットワークインフラが重要になってくる。ネットワーク系販社によるサーバーの販売が増えるなど、ここでも商流が変わる。