SFA(営業支援システム)は、1990年代前半に登場し、後半に日本国内での導入が進んだ。営業プロセスを可視化し、営業スキルのボトムアップ、収益改善につなげるうえで、SFAは有効なツールとなる。しかし、登場してから20年ほどが経つため、大手企業では導入が一巡している状況だ。提供形態が、オンプレミス(社内設置)からSaaSに移行しつつあるなか、現在のSFAの状況を追った。
大企業では一巡したSFA
中小の空白商機へ SFA(営業支援システム)は米国で誕生し、日本に登場したのは1990年代である。導入が進んだのは1990年代後半からのことだ。それまで「勘、根性、努力」といわれていた観念型の営業業務をシステム化したもので、顧客情報や商談、営業スケジュール、進捗状況などの情報をシステムで管理・共有することによって組織営業を可能にし、営業担当者のスキル底上げを図ることを目的としている。当時は外資系の企業が主要ベンダーであり、かつ大企業をユーザー対象とした製品が多く、価格も億単位の非常に高価なツールが多かった。
米国では、日本のような終身雇用が保証されておらず、成果主義、キャリアアップのための転職活動を繰り返すなど、ビジネススタイルが異なっていたことから、SFAは一時、鎮静気味になっていたことがある。外勤の営業担当者が利用するツールであり、社外で利用するためのインフラが整っていなかったことも、落ち込みの理由として挙げられる。
「われわれの認識からいうと、第1次ブームは、1996年から98年くらいに、当時グループウェアとして世の趨勢だったロータスノーツの上で動くものが日本で出回っていた」と、NIコンサルティングの長尾一洋社長は当時を振り返る。ノーツ上で動くアドオン製品は比較的安価なものが多かったものの、やはりノーツを導入している会社だけに、利用するのはそこそこの規模でITのリテラシーの高い企業に限られていた。
次にブームが訪れたのが、セールスフォース・ドットコム、ソフトブレーンが登場した2000年ごろ。携帯電話やウェブベースで動くアプリケーションが登場した。これによって、ノーツを購入しなければならないといった非常に重い仕組みだったものが、サイボウズなどのグループウェアがウェブに切り替わっていく流れのなかで、同様にウェブ化してきた。携帯電話がネット対応になったという事情も大きな要素だ。モバイルパソコンや携帯から入力が可能になったことによって、一気に導入が進んだ。
2005年以降は、ブロードバンド環境の整備、普及により、SaaS/ASPによるアプリケーション提供が進んだ。
SaaS/ASPでの導入、急速に伸びる
SaaS/ASPで「焼畑農業」の懸念も
SFA定着のための支援不可欠 国内でも指折りのSFAの導入実績を誇るソフトブレーンは、2000年から「eセールスマネージャー」を販売する。秋山真咲社長は、「調査会社の予測では、CRM(顧客管理システム)のなかでもSFA、SFEといった営業支援分野の2009年の市場規模は63億円とみられている。08年との対比では、パッケージが1.6%増、SaaS/ASPでは33.3%の伸び、また、パッケージとSaaS/ASPを比較すると、パッケージが57.5%、SaaS/ASPが42.5%という割合だ。市場全体では年平均成長率が8%ということで、伸びているとの結果が出ている」と説明する。大手企業の導入は一巡しているものの、2000年以降に導入されたシステムのライフサイクルの観点から見直しが進み、二巡目では再度営業体制のレベルアップに向けた導入が進んでいる。
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ソフトブレーン 秋山真咲社長 |
一方、これまで導入の空白地帯だった中堅・中小企業への導入は、緒についたばかりの段階とみられている。とはいうものの、とくに中小規模の企業では「経済情勢の悪化もあってか、まだエクセルベース、メールベースで営業管理を行っている企業が多く、それでも事足りる企業が多いのが実際のところ」(秋山社長)と話す。
中堅・中小規模での調査を得意とする調査会社でも「中堅・中小企業には、SFAもCRMもまだ浸透していない。普及率は10%にも満たない印象だ。IT投資額が少なく、経営も厳しい今、効果がみえにくいSFAやCRMを導入しようという機運は薄い。そのため、今後も需要増は期待できないだろう」と指摘する。そのうえで、「SMB市場に潜在需要が眠るといわれるが、SMBの今のIT利用状況を考えれば、当面は期待できないだろう」との見方がある。
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ネオジャパン 中沢仁執行役員 |
一方、グループウェアから派生したSFA「desknet'sSSS」を提供しているネオジャパンでは、2000年からSFAを提供、従業員50人ほどの規模の企業をメインに導入している。現状は、主力とするグループウェアに比べて更新率が高くないことから、具体的な拡販施策は打っていないそうだ。中小企業には営業体制が整っていない会社も多いことから、ツールを導入するには時期尚早と判断しているが、「中小企業はSFA導入の空白地帯であり、将来的に市場が盛り上がりをみせるならば有望分野といっていい」(中沢仁執行役員)ともみる。
前出のソフトブレーンは、「eセールスマネージャー」を幅広い規模の企業に向けて、パッケージとSaaS/ASPの二つの形態で提供している。秋山社長が紹介した前述の調査結果ではSaaS/ASPの伸びが顕著だったが、同社の全売上高に占める比率はパッケージが22%、SaaS/ASPが23%と大差ないという。パッケージにするかSaaS/ASPかは、パイロット導入によって全体のコストを見極めたうえで選択する格好になる。
最近の傾向としては、「以前から使っているSFAツールを見直し、収益の向上、無駄の改善といった定量効果に関する事例を多く求められ、かなりシビアに検討する顧客が増えた」(秋山社長)という。
SFAツールの導入は、あくまでも営業効率を高めるための手段だ。使う側がどのようにツールを有効活用していくかが問われる。そこで、ソフトブレーンでは、営業課題を解決するための四つの力の強化を提案している。(1)ウェブマーケティングや店頭マーケティングなど「マーケティング力の向上」、(2)組織の営業スタイル、それぞれの企業に適した営業プロセスを設計し、PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)を回す仕組みを構築することによる「組織営業力の向上」、(3)営業担当者のスキル向上や人材の管理能力などを高める「人間力」の向上、(4)ITリテラシーを高め、スマートフォンのシンクライアント化やDaaS化によって効率的に仕事が行える環境を構築して「IT力」を高める、という内容だ。グループ会社と連携し、アウトソーシング、システム開発、教育など、周辺サービスを通じて顧客に提案している。秋山社長は、「売ることを前面に出しすぎると、せっかく導入したSFAツールが効果を発揮しないままになってしまう。ツール選定の前に、企業の営業力などを高める必要がある」と強調する。
拡販面で期待されているのはSaaS/ASPだが、それが盛り上がっている状況に対し、秋山社長は「SFAは導入したからといってすぐに効果が現れるものではない。ベンダーが売りっぱなしにすれば、『焼畑農業』のように土壌(市場)が荒廃してしまう。それでは意味がない。当社もSaaS/ASPを提供しているが、ベンダーは顧客企業に対し、利用するにあたっての意識改革を含めたサポートを行う必要がある」と説く。
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