販社編
各社、需要を掘り起こす策を展開
新しい製品・サービスの取扱いも ワールドワイドの業界再編が続く状況下、日本のネットワーク系販社にとっては、どのメーカーと組むのが最適なのかを見極めなければならない状況になっている。また、ネットワークインフラの構築が中心だったビジネスモデルから、サーバーやアプリケーションなど事業領域をどの程度まで広げていくかも成長するための大きなポイントとなる。ネットワーク系販社の現在の取り組みを紹介する。
Case.1
日商エレクトロニクス
ジュニパー製品を主力に拡販  |
| 清水功グループリーダー |
日商エレクトロニクスは、通信事業者向け事業でジュニパー製ネットワーク関連機器の販売に力を入れている。ジュニパー製のスイッチやルータが通信事業者のニーズに適していることや、ジュニパーが有力な販社と強いパートナーシップを結ぼうとしていることが要因だ。清水功・サービスプロバイダ事業本部マーケティング統括部第二プロダクトマーケティンググループリーダーは、「今年度(2011年3月期)に入ってからリプレースや新規開拓など、さまざまな案件を獲得している」と自信をみせる。
昨年度は厳しい状況が続いたものの、「DCのインフラ増強に向け、仮想化や自動化の要望が出てきている。その要望に対して、スイッチ『EX』シリーズやルータ『SRX』などで応えることができる」という。また、ジュニパーが掲げているサーバーやストレージなどのハードメーカーやソフトメーカーなどとアライアンスを組んでいるという“マルチベンダー化”に対して、「さまざまなメーカーの製品を組み合わせた提供は、当社が最も得意としているところ」としている。サーバー販売を中心にビジネスを手がけているSIerなどと「共同で案件を獲得するケースも出ている」。シスコシステムズが自社製品のみでインフラを構築する“オール・シスコ”と比較して、「優位性が発揮できる」と断言する。
今後の取り組みについては、「スイッチの新規格『FCoE』を視野に入れたビジネスを手がけていく」という。この分野でも、ジュニパーが開発を進めていることから、ジュニパー製品を核にインフラ案件を増やしていく。
メーカーとの協調関係で、同社は強みを発揮できた。「今年度は確実に伸びる」とみている。
Case.2
ネットワールド
“スパイス”を加えた展開へ  |
| 黒川拓生本部長補佐 |
ネットワールドでは、L2/L3スイッチだけでは案件が満足に獲得できないと判断、「インフラソリューションの付加価値化が行える“スパイス”的な製品を揃える」(黒川拓生・マーケティング本部長補佐)という。具体的なメーカーや製品名については明らかにしていないものの、「近く販売を開始する」計画を立てている。
“スパイス”という表現は、「ニーズに応じて、さまざまな角度から味付けする」という意味。得意とする仮想化やストレージとネットワークインフラ、加えて新しく取り扱う製品を組み合わせる。これによって、ユーザー対象として「特定業界から一般業界まで幅広く提供していく」考え。仮想化関連の製品・サービス提供で同社は定評があるだけに、「他社との差異化を図ることができる」と自信をみせる。
スイッチの販売については、「H3C製品が昨年同期と比べて2倍に膨れ上がっている」という。さらに成長軌道に乗せるため、味付けができる新しい製品を取り扱うようになったわけだ。
米HPが米3Comを買収することになったことについては、日本市場でH3Cブランドの位置づけがどのようになるかが読めないため、同社は今回の買収について慎重な姿勢をみせるが、もし「ProCurve」ブランドに統一されるのであれば、HPのサーバーやストレージを取り扱ってないことなどビジネスの現状を含めて同社がHPの販社になる可能性は低いといえそうだ。ただ、将来H3Cブランドが日本市場で販売されなくなったとしても、これまで販売していたユーザー企業へのサポートについては、きちんとサポートしていくとみられる。そのため、今後もH3C製品については「拡販を図っていく」方針を示している。
Case.3
三井情報
通信事業者と密に情報交換 三井情報は、グローバルでビジネスを手がける企業や、これから世界進出しようとする企業に対して、回線を含めたネットワークインフラ構築を提案している。大島正行・プラットフォームソリューション事業本部長補佐(兼)事業推進部長は、「案件を獲得するには、通信事業者との密な情報交換がカギ」とみている。
同社は昨年、米国の大手通信事業者であるベライゾングループと回線サービスの提供でアライアンスを組んだ。「ほかにも、日本の通信事業者とも協業している」。多くの通信事業者とパートナーシップを深めることで、回線を含めた総合的なプラットフォームを提供することに力を注いでいる。
この背景には、企業がグローバル化を図るうえで、統一されたITシステムやインフラの構築、そして回線サービスの導入を視野に入れることが必要になってくることが要因してある。ユーザー企業にとって問題になるのが、「インフラと回線の両方を誰に依頼すればいいか」ということ。通信事業者とアライアンスを組むことで同社が単独で役目を果たすというわけだ。
国内ネットワーク関連市場については、「成熟期にある」と認識しており、ネットワークインフラを提供していくうえで、今までのビジネスモデルを改善しなければならないと同社では判断している。
アプリケーションやSaaSの提供、ITシステムとネットワークインフラのインテグレーションの両方を手がけることができる強みを生かし、さらには同社がもっていない回線について通信事業者と手を結ぶことで事業拡大を図るという戦略だ。
Case.4
ソリトンシステムズ
WAN高速化でクラウド需要狙う ソリトンシステムズは、WAN高速化機器による仮想環境・クラウドでの展開を視野に入れ、リバーベッドの「Steelhead」をベースとしたビジネスの拡大を図ろうとしている。
リバーベッドが仮想アプライアンス製品のリリースを予定していることに伴い、ソリトンは仮想環境での需要を囲い込むことができる。さらにはクラウド関連で海外の大手パブリッククラウドにオプションとして製品を組み込むための検証を進めている。これによって、パブリッククラウドを利用するユーザー企業も製品の販売対象になると想定している。また、国内でもパブリッククラウドに取り組み始めているベンダーが存在することから、クラウド事業者、またそのクラウドを利用するユーザーに製品導入を進めていくことを狙っているのだ。
同社は、07年にリバーベッド製品の取り扱いを開始。ネットワーク回線の発展に伴い、管理コストを削減するためにサーバー統合によるデータ集約などのニーズが国内で出始めている。しかし、遠距離からサーバーにアクセスして情報のやり取りを行う場合、遅延が起こるといった弊害が起こる。「回線を高速に変えても解消できない。そこで、回線と合わせてWAN高速化アプライアンスを提案している」(高田歩・マーケティング本部 マーケティング3G 製品担当マネージャ)という。
リバーベッドの知名度は、シスコやジュニパーなど大手メーカーに劣るものの、「製品で高い評価を得ている」という。WAN高速化機器市場ではシェアが高いのも事実だ。
今後もコスト削減に向けたネットワークの変更やデータ統合のニーズが高まり、さらに製品の需要が高まることが予想される。
Case.5
ネットマークス
FCoE技術の追求で先行 ネットマークスは、「FCoE」の技術を追求、「技術的には、いつでも提供できる準備が整った」(藍隆幸・商品企画部第一企画室長)と自信をみせている。
FCoEは、1台のスイッチでイーサネットとファイバーチャネル(FC)の両方を搭載していることから、社内でイーサネット、拠点など外部とのアクセスでFCが使えるため、需要の高まりが期待されている。クラウド時代では主流になるとの見方も出ている。しかし、現状は「価格が高い」「製品ラインアップが乏しい」などといった弱点があり、多くのインテグレータが様子見の姿勢をとっている。しかし、ネットマークスは「DCを中心として、インフラを増強しているユーザーが多いなか、次世代を見据えた製品を提供していかなければならない」(第二企画室の高木経夫氏)と判断。しかも、「ランニングコストや管理面を考えると、ユーザー企業にとって確実にメリットが高い」(同)と言い切っている。
現段階では、ラインアップが揃っていないため、カスタマイズでFCoEベースのインフラを導入しているが、「ラインアップが揃った際、いつでも完全なFCoE化が図れる“レディ”状態で提供している」(高木氏)。実際に、いくつかの案件を獲得したようだ。
ただ、FCoEだけに絞ったビジネスだけでは案件が限られるため、案件数の増加に向けてWAN高速化機器で拠点間を高速にアクセスしたいというニーズに対応している。「サーバー統合化の進行に伴い、WAN高速化機器は堅調に伸びている」とのことだ。

藍隆幸室長(左)と高木経夫氏
Epilogue
このように、ネットワーク系販社は各社それぞれの戦略で事業拡大を図ろうとしている。メーカーによるM&Aで業界再編が進んでいることに加え、NI(ネットワークインテグレーション)力といったクラウド・サービスを提供する事業者のインフラ増強を支援しても、直接的にはクラウド時代でサービスを提供するビジネスモデルではないことから、いかに次世代を視野に入れた取り組みができるかどうかが勝負になってくる。
このような状況のなか、これまでマルチベンダー化を推進してきたネットワーク系販社は、継続的に成長していくために特定のメーカーと戦略的にパートナーシップを深耕、つまりネットワーク関連製品の絞り込みを進めていることは確か。ビジネスモデルの改革を行っているというわけだ。また、仮想化環境を含めたインフラ構築ができるという点で今後はクラウド時代に適したサービスを創造していく可能性がある。