蘇生へのシナリオ
経済産業省および「J-SaaS」プロジェクトの幹事会社だった新社会システム総合研究所から、その運営を担うことになった富士通。バトンを渡された環境は決して良好とはいえない。とはいえ、このまま何もしなければ、使われないIT基盤を運用するだけとなる。今年5月20日、「J-SaaS」に参加するISVを集めた富士通主催の「J-SaaS民営化キックオフ会議」が開かれ、今後の計画が語られている。
報道発表の12日前に
キックオフ 東京・港区の世界貿易センタービル。その29階に、富士通が10年4月26日に構えたクラウドをPRするための戦略的施設「富士通トラステッド・クラウド・スクエア」がある。そのスペースで、「J-SaaS民営化キックオフ会議」が開かれた。富士通が「J-SaaS」の運用を引き継ぐことをマスコミ発表したのが6月1日。その12日前の5月20日のことだった。
目的は、運用会社が富士通に代わることが決まり、この時点で参加しているISVに対し、先行して現状報告と今後の計画を説明することにあった。当日、この会議に集まったのは、「J-SaaS」に参加するISV38社59人、富士通関係者28人、そして経済産業省の担当者1人の合計88人だ。
約90分間の会合で語られたのは、「『J-SaaS』拡販施策」である。示された内容は、大別すると三つ。(1)知名度不足解消、PRのための「プロモーション」(2)中小のユーザー企業に提案・販売するための「間接販売体制の確立」(3)魅力あるSaaSの総合基盤にするための「サービスメニューの拡充」だ。その内容を個別にみてみる。
「プロモーション」では、まず「J-SaaS」の紹介と販売窓口を担う専用サイト「J-SaaS」ポータルを刷新。そのうえで、リスティング広告の見直しと、富士通の企業サイトと中小企業向け情報提供サイトとの連携を図る。
運営を任された6月にすでにウェブサイトのデザインを大幅に刷新し、富士通との連携は対応済み。今後は中小企業向け情報サイトとの連動を手がける予定だ。
また、9月にはSEO(サイトエンジン最適化)対策などを施して、再びウェブサイトを刷新し、知名度向上を図る方針である。
新目標も明示
年度内に5000本 一方、「間接販売体制の確立」では、新代理店制度を立ち上げる。「J-SaaS」で提供しているSaaSサービスをシステムインテグレータ(SIer)やITサービス会社が再販する体制を確立しようとしているのだ。再販会社(販売代理店)が、販売額の数%を手数料として得られる仕組みを検討中という(図3参照)。販売代理店には、中小企業の経営およびITコンサルティングサービスに強いITコーディネータや、富士通のパートナーなどを計画する。ITコーディネータは約6500人、富士通の「SaaSパートナー」は約350社存在する。この組織を活用して、J-SaaSを一気に増やす算段だ。8月からは、ISVと代理店とを結び付けるための説明会を定期的に開催している。
三つ目として、「サービスメニューの拡充」。ここでは、「J-SaaS」のサービスを知り、作ってもらうために無料アプリケーションを「J-SaaS」の基盤として提供する。無料サービスを呼び水にして、「J-SaaS」でラインアップしている他の有料アプリも知ってもらい、販売に結び付けるわけだ。そして、品揃えが少ないジャンルのソフトと、今のメニューでは手薄な業種特化型のソフトについては、従来以上にISVの誘致を進めながら、富士通自体がもつソフトも「J-SaaS」のサービスとして移植する考えだ。8月下旬時点で、集まっているサービスメニューは48種類(図4参照)となっている。
そのうえで、ISVとの連携を従来以上に強めるため、ISVとの定例会議も行う。ISVや運営協力会社、そして富士通関係者が参加する「J-SaaS運営会議」を半年に1回開催。ISVと富士通とのミーティングは2か月に1回開く。
そして、富士通が新たに示した目標がある。それが、「今年度(2011年3月期)末までに会員数1万人、有償サービス利用ユーザー5000人の獲得」だ。
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