2000年頃から進められてきた電子自治体への取り組み。これまで、電子自治体を実現するために、共同アウトソーシングなど、さまざまな試みがなされてきた。それから10年を迎える今、総務省主導で「自治体クラウド」が進められ、開発実証事業が展開されている。そんな電子自治体に焦点をあて、自治体向けのソリューションを提供するベンダーなどに、今後どのようなビジネスチャンスが訪れるのか、その可能性を探った。
共同利用で「割り勘」効果
「高止まり」のITコスト低減へ  |
デュオシステムズ 伊藤元規常務 |
「電子自治体」という言葉が登場したのが2000年前後で、それから約10年がたった。2000年に「IT基本戦略」が構築され、それをベースとして、2001年「e-Japan戦略」が施策として打ち出された。「e-Japan戦略」の重点計画としては、超高速ネットワークインフラの整備と低廉化、電子商取引、人材育成の強化、またインターネットでの情報公開、各種手続きのオンライン化や役所の業務を効率化する「電子政府」の実現が掲げられている。この頃に電子自治体の基盤としてLGWAN(行政総合ネットワーク)の整備が進められ、04年3月時点で都道府県の全市町村に接続を終えている。LGWANは地方公共団体のネットワークを相互接続し、コミュニケーションの円滑化、情報共有による情報の高度利用を図ることを目的として整備されたものだ。
「電子自治体」の実現には、新たなシステムへの投資が必要とされている。これまで自治体では情報システムを庁内で保有し、運用してきたケースが多かった。自治体関連ビジネスに強みをもち、現在行われている自治体クラウド開発実証事業のPMOを務めるデュオシステムズの伊藤元規常務は、「自治体は財政が逼迫しているにもかかわらず、高いシステムの運用・維持コストをかけていたり、ITの専門知識をもった人材を確保するのが難しいなどの課題を抱えている」と状況を語る。そうした課題を解決する施策として、2002年頃にはシステムの開発、運用などを民間企業に外部委託し、各自治体の業務を標準化したうえで、データセンターにあるシステムを共同利用することでコストを削減しながら、電子自治体を実現しようという「共同アウトソーシング」という手法が立ち上がった。共同化によって、ITシステムの運用などにかかる費用を「割り勘」効果で削減する。クラウド・コンピューティングに通じるこの考え方は、「民間よりも自治体の取り組みのほうが早かった」(伊藤常務)という。
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総務省 西潟暢央課長補佐 |
09年7月にはIT戦略本部が「i-Japan戦略2015」を公表。三大重点分野として「医療・健康」「教育・人財」「電子政府・電子自治体」を挙げた。そこで、電子政府・電子自治体クラウドの構築に言及している。「自治体クラウド」は2001年に構築されたLGWANに接続されたデータセンターとASP/SaaS事業者のサービスを組み合わせて、自治体が業務システムを共同利用することによって、低コストで、しかも効率化を図るものであり、「共同アウトソーシング」と基本的な考え方は同じという。
自治体クラウドを推進する総務省自治行政局地域力創造グループ地域情報政策室の西潟暢央課長補佐は、「情報システム関連費用が高止まりしていることや、業務ごとにシステムを構築してきたことによって生じた情報システムの非効率をブレイクスルーするのはクラウド・コンピューティングのなせる業」と期待を込める。情報システムは重要な神経系ではあるが、コア業務ではない。財政難のなかでも質の高い行政サービスが求められている。「企業などと同じように、本来のコア業務に内部のリソースを充てるべきで、そのほかは外注したほうが、ヒューマンエラーを防ぐことができるし、100%とは言い切れないが、民間の強固なセキュリティの保たれたデータセンターに預けたほうが、安全性を保つことができる」(西潟課長補佐)と、クラウドのメリットを説明する。
昨年からは、北海道、京都、徳島、佐賀、大分、宮崎の6道府県でLGWANの開発実証事業を進めている。「これによって何ができるのか、必要な費用の感触はどうかといったさまざまな懸念材料を払拭していく過程を『証拠』として残し、各自治体がコスト見合いでクラウド導入を決めていける状況にする」(西潟課長補佐)という。来年1月には法制化も計画されている。前出の伊藤常務は「財政が逼迫している自治体にしてみれば、今使っているシステムをリプレースするのに莫大なコストがかかるなら、もうクラウドの波に乗らないとまずいということになる。これまでの共同利用の取り組みは成功をみなかった。クラウド推進本部発足や法制化の話からわかるように、国も本気度が違う。自治体が変わる最初で最後のチャンスだと思っている」と話した。
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