自治体クラウドがにわかに活況を呈してきた。多くのベンダーが参入を表明するなか、日立製作所(中西宏明社長)は、自治体向けクラウド事業の強化に乗り出した。グループ企業それぞれが提供してきた自治体向けサービスを、クラウドメニューとして体系化。住民情報などの基幹業務をはじめ、自治体の主要業務システムをクラウド環境で構築・運用する「日立自治体クラウドソリューション SUSTINAD(サスティナード)」を投入したのだ。自治体向けビジネスで、競争が本格化するのは、まさにこれからになりそうだ。
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| 前田みゆき副センタ長 |
「5年間で300自治体」と強気の販売目標をぶち上げた日立製作所。「本気度」がひしひしと伝わってくる。中小規模の自治体を中心にクラウド導入が進むと踏んでいるが、課題は少なくない。肝心なのは、グループ企業同士の連携と地場ベンダーを交えた商流の構築といえそうだ。
同社は、グループ統一ブランドとして、新たに「SUSTINAD」を立ち上げた。あわせて、自治体クラウド推進センタを設立。グループを横断した戦略の立案や拡販体制の構築・連携などが狙いで、日立製作所のほか、日立ソフトウェアエンジニアリングと日立情報システムズ、日立システムアンドサービス、日立公共システムエンジニアリングの参加が明らかとなっている。
「SUSTINAD」は、日立グループのクラウドソリューション「Harmonious Cloud」をベースに、各社持ち合いのパッケージソフトウェアやソリューションを生かして共同開発しており、「SUSTINAD/SaaS」と「SUSTINAD/Share」、「SUSTINAD/Private」の三つから構成される。「SUSTINAD/Share」の販売には、地場ベンダーとの協業を強化し、地域のデータセンター(DC)に共同利用環境を構築。同社が地場ベンダーに期待するのは、「ヘルプデスク的な役割」(前田みゆき・自治体クラウド推進センタ副センタ長)で、地域密着型のサービスを提供していく考えだ。オフコンとオープンシステムが混在状況にある自治体が少なくないなか、「完全に当社に乗り換えてもらう」と意気込む。地場ベンダーが優れたアプリケーションをもっている場合は、クラウド基盤上でマッシュアップすることも考えられるという。
全国の自治体を取り巻く環境を振り返ってみると、高止まりしているシステムコストや頻繁な法改正、セキュリティ対策の貧弱さなど、多くの問題が山積している。法改正に対しては、「30年に一度の大改革」と表現するほどだ。これは、ベンダーにとっては、旨味のある話。しかし、システムの提供を受ける側にしてみれば、「つぶれかけた自治体にシステムを提案するベンダー」(自治体関係者)としか映らない。同社の試算によれば、2015年までに、人口20万人未満の自治体の60%程度がクラウドに移行する。自治体の台所事情が苦しいだけに、クラウド導入が加速するというわけだ。
「SUSTINAD」は、導入期間の50%短縮のほかコストの30%低減、高セキュリティを謳う。ベンダーへの不信を募らせている自治体が少なくないだけに、商流の構築はもちろん、同社がきちんとメリットを訴求できるかどうかが成否を分けるといえそうだ。(信澤健太)