自治体クラウドの取り組みが加速している。長崎県では、独自に開発した「長崎県電子県庁システム」をクラウド方式で県内自治体にサービス提供することを発表。第一弾として電子申請の受付サービスを2009年12月に開始した。一方、京都府では07年から全国初の文書管理システムの共同運用を開始し、その後も各種システムの共同化を進めている。自治体クラウド推進で一番の障壁となるのは業務の標準化だが、京都府ではその取り組みが進んでいる。
自治体クラウドとは、総合行政ネットワーク(LGWAN)に接続された都道府県域データセンターとASP・SaaS事業者のサービスを組み合わせて、業務システムを共同利用できる環境をいう。総務省は09年8月に、北海道、京都、佐賀、大分、宮崎の5道府県を自治体クラウドの実験モデルとした。
長崎県は今後、公共施設予約や電子決裁、グループウェアなどのサービスを順次追加していく予定だ。これには、県民の利便性向上とコスト削減のほかに地場IT産業のバックアップという意図がある。長崎県は、他県の自治体に向けて電子県庁システムの利用拡大を図り、地場ベンダーが運用・保守業務の継続的な受注ができるようにする構想だ。とはいえ、課題がないわけではない。コスト削減といっても、県職員の人件費が十分に可視化されているとは言い難い。
一方、京都府の自治体クラウドの取り組みはどうか。京都府は、「行政のための自治体クラウド」(原田智・京都府政策企画部業務推進課課長)を掲げる。これには、システムの共同化と業務の標準化による業務の効率化やコスト削減のほか、制度改正のたびに特需に沸いていたベンダーへの対策といった意味合いもある。台所事情の苦しい自治体にとって、子ども手当や外国人登録制度の改正など、制度改正のたびに、ベンダーから多額のシステム投資を提案されるのはつらい。原田課長は、地場のIT産業について、「アウトソーシングセンターとして生きていくのでは」と語る。
京都府の取り組みは、大きく三段階に分けられる。第一段階は、共同化推進のネットワーク基盤の構築。第二段階は、自治体の主なシステムの共同化とノウハウの共有だ。京都府は、99年に加盟町村が共同購入できる基幹業務システム「TRY-X(トライ・エックス)」の提供を開始。08年からは後継のASP型基幹業務システム(住民記録・税業務系)の運用を開始しており、大規模市町村でも利用が可能となっている。すでに宇治市と綾部市で稼働中で、このほかいくつかの自治体も導入を表明している。地理情報システム(GIS)や電子窓口サービス、文書管理システムも共同化し、数億円のコスト削減を可能にしたという。京都府としては、今後さらに他県へも共同化の範囲を広げていく方針だ。第三段階は税業務の標準化で、課税と徴収業務をそれぞれ一体化。大幅な経費削減を期待する。
原田課長は、一連の京都府の取り組みについて、「システムの共同化と業務の標準化のノウハウがある。基幹系は他県に比べ進んでいる」と胸を張る。とはいえ、都道府県を横断したシステムの共同化に向けた取り組みは容易ではない。原田課長は、「最大公約数的なところに収めていきたい」と語る。すでにワーキンググループを組織し、100回以上の会議を重ねてきた。「住民にとって価値があるかどうか」(原田課長)。こう強調するが、時折り「それは、もちろん難しいですよ」と言葉を漏らす。ひと筋縄ではいかない実情が読み取れる。(信澤健太)