日本IBM
クラウド再販制度、300社に拡大
「パートナー連合軍」で市場を席巻
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日本IBM 岩井淳文 パートナー&広域事業担当 執行役員 |
今年2月、日本IBMは同社のクラウド基盤や同社と提携する通信キャリアなどから提供されるクラウド・サービスの再販制度「サービス・オリエンテッド・パートナーリング(SOP)」を立ち上げた。制度には、現在までに116社が「協業サービスパートナー」として参加を表明した。これを「2010年末までに300社まで拡大する」(岩井淳文・パートナー&広域事業担当執行役員)という目標を掲げている。
この制度は、日本IBMと協業実績のある従来の付加価値ディストリビュータ「バリュー・アデッド・パートナー(VAP)」(=JBグループと日本情報通信)など、パートナー制度に属するベンダーを主な対象としている。ただし、サービス売りを得意とする新規パートナーの参画もあるという。「IBM本体は大規模企業向けのハードウェア、ソフトウェアを中心としたソリューションに注力する。SMB向けは、パートナーがクラウド・サービスを中心に顧客を開拓できる支援体制を整える」(岩井執行役員)という。モノ売りの流通はVAD体制を堅持する一方で、「当社やパートナー間の競合を排し、逆にパートナー間の協業を推進する」(岩井執行役員)と方針を語る。
すでに協業サービスパートナー内では、再販できるクラウド・サービスとして、業種・業務・業態別に40社/40ソリューションが「サービス商材」としてできあがっている。例えば、エスアンドアイ(S&I)が提供するiPadを使った診療所向けの「医療電子カルテ」システムなどがそれだ。この汎用化されたサービス商材を協業サービスパートナー間で再販したり、日本IBMが「サービス・インテグレータ」と呼ぶシステム提供ベンダーやサーバー販社などが、自社で得意とする商材やパブリッククラウド上のSaaSと融合させて顧客へ提供する。
日本IBMのクラウド基盤を複数のパートナーで共同運営するデータセンターに移植し、そのサービスをリセラーが再販する形も検討中だ。
同社は、クラウド市場で優位に戦う切り札として、今年5月に米IBMが買収した米キャストアイアンシステムズの仕組みを、早期に日本投入する。これを使えば、パートナーが顧客の既存システムとクラウド・サービスを容易に連携させることができる。パートナーは、顧客が仮想化技術で実現することができる柔軟なシステムを構築し、さらにクラウド・サービスを提供する土壌をつくるという算段だ。
日立製作所
PaaSをパートナーにOEM的に供給
「日立のクラウド使いたい」が増殖中
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日立製作所 高橋典幸 クラウド事業統括本部 担当本部長 |
日立製作所は、情報・通信システム社を中心とするグループの技術ノウハウを結集したクラウドソリューション「Harmonious Cloud(ハーモニアス・クラウド)」を展開中だ。同社はこのソリューションの強化点として、以下のような点を挙げている。標準プロセス・標準モデルを使い「迅速・確実にプライベートクラウドを構築する」、日立グループがもつ業務ノウハウをサービス化して「パブリッククラウドのメニューを拡充する」、この二つを組み合わせてパートナーやグループ販社に活用できる「フレームワークの整備」だ。
この戦略を知った日立製品の取扱量が多い既存パートナーからは、「日立のクラウド基盤を使って、自社でクラウド事業を立ち上げたい」との要請が増えた。これを受けて日立側では、「パートナーが当社のPaaSを使って、OEM的にクラウド基盤やサービスを提供する仕組みをつくろうとしている」(高橋典幸・クラウド事業統括本部担当本部長)段階にある。
日立では、このパターンを、まずは既存パートナーに定着させ、SMB向けのクラウド・サービスを提供する「商流」をパートナーと共同で構築する。現在のパートナー区分は、大きく二つになる。サーバーなどをソリューション販売するSIer群の「ビジネス・パートナー」と、前出の例にある「販社」の二つだ。この両者にデータセンターなどを含めた「HITAC情報サービスネットワーク協議会(H協)」がある。これに日立情報システムズなどグループ会社で、SMBを中心にクラウド・サービスを展開する方針だ。
同社の強みの一つが、全国17か所にグループ会社の拠点(データセンター保有)があり、日立電子サービスが顧客システムの環境・設備監視をする「ファシリティーLCSセンター」などをもつことだ。パートナーのデータセンターを加えれば、「全国に分散した拠点を利用し、顧客の近くでサービスを供給できる」(高橋・担当本部長)。このスケールメリットを生かし、パートナー経由でのクラウド・サービスの提供やプライベートクラウド構築の支援ができる体制を整えている最中だ。
Epilogue
大手ITメーカー4社のクラウド推進担当者と既存パートナーが交わす情景が思い浮かぶ。
パートナー クラウドを展開するには、どうすればいいですか。
メーカー担当者 御社のビジネスモデルを転換し、現在と同じ水準の収益をあげるお手伝いをします。
なかには、こんなことやり取りもあるだろう。
パートナー クラウドはやるべきですか。
メーカー担当者 やらなければ、御社は消滅します。
実際には、こんなどぎついやり取りがあるかどうかはわからないが、メーカー側は、クラウドをパートナーが展開できるようにする支援体制を整えた。外資系ベンダーがよく使う言葉を借りれば、クラウドのパートナー支援体制は、すでに“レディー”だ。パートナーは、大手メーカー4社の動きを見極め、どこのクラウド・サービスを“担ぐ”のか、あるいは自前で動くのかを早急に決める段階にあるといえる。パートナーがいっせいに動き出せば、日本のIT業界は、一気に“クラウド・シフト”に移ることになる。
ただ、ユーザー企業に話を聞くと、気になるのは、クラウドで何がどうなるのか(メリット/デメリット)を認識している会社が、意外に少ないということだ。顧客の側に立てば、従前のC/S型システムを提供し続けるベンダーの言い分もわかる。
いまIT業界は、オフコン→オープン化に次ぐ、大きな転換期を迎えている。C/Sとクラウドを比較した場合に、クラウドの優れた点を説明できないSIerは、この転換期に乗り遅れ、事業継続が難しくなるのは間違いない。