停滞感があるIT産業における救世主のごとく、一気に普及したクラウド・コンピューティング。国内経済がどん底を脱し、2010年は徐々にユーザー企業のIT投資額も回復気運をみせている。そんななかで、ユーザー企業はクラウドと、それに不可分の仮想化技術に注目している。イメージばかりが先行し、実需がみえにくかったクラウドが、いよいよ普及元年を迎えようとしている。ITベンダーにとっては、景気後退の影響で落ち込んだ業績をV字回復に導くチャンスが待ち受けているのだ。


認知度高まり、ユーザー企業の投資対象に

 IT調査会社のIDC Japanが2010年6月3日にまとめた調査レポートによると、クラウドサービスの国内認知度は59.2%と、半数を超えた。クラウドという言葉がユーザー企業に一気に浸透したことがわかる。

 その一方で、クラウドサービスを現に活用しているユーザー企業に対して聞いたセキュリティに関しての問いでも、クラウドに好意的な回答がある。ユーザー企業がクラウドの利用するうえでもっとも懸念しているポイントは「セキュリティ」だが、セキュリティレベルに対する満足度を聞いた質問に、「大変満足」および「満足」と回答した合計値は、全体の60.2%となった。IDC Japanの唐澤正道・ITサービスグループシニアマーケットアナリストは「満足度は高い」と、この結果をみている。

 同じ調査でパブリッククラウドサービスの利用を決めた理由も尋ねている。結果をみると、1位にランクされたのは「ランニング(運用)コスト」、2位が「初期導入コスト」。景気後退の影響を受けて、ユーザー企業のIT投資額が極端に減少したことも、クラウドの普及を後押しした要因と考えられる。

 イメージばかりが先行していた時期は過ぎ、ユーザー企業・団体は確実にクラウドを投資対象として見始めた。フロント系アプリはパブリッククラウドサービスを活用し、基幹系システムはプライベートクラウドを構築・利用する動きが顕著に現れ始めている。例えば、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は、富士通のサポートでプライベートクラウドを構築。120台のサーバーを30台に集約したことなどで、サーバー稼働率を従来の約10%から90%程度に高めることに成功した。このような事例が最近は頻繁にみられるようになってきている。

 高まるクラウドへの関心とともに、ユーザー企業が意欲的に投資を検討しているのが仮想化だ。一般的にクラウドとは、「仮想化・自動化・標準化」の三つの技術が組み込まれた、効率的・柔軟な情報システムを指す。とくに仮想化は必須技術で、仮想環境を構築するだけでもコストメリットは大きい。そのため、「プライベートクラウドの構築はまだ先だが、将来のクラウド化を見越してまずはシステムを仮想化し、コストを下げたい」というユーザー企業・団体のニーズが急速に高まっているのだ。

 IDC Japanによると、システムを仮想化するために導入するサーバーの出荷台数は、09~14年で年率15.9%で伸び、14年には約4台に1台が仮想化サーバーが占める状況になると予測されている。

 09年までは、大企業と一部の先進的企業のみが構築する仮想システムだったが、ベンダーも増え、ツールの価格も下がってきたことから、中堅・中小企業(SMB)も投資対象になる環境になったことから、急速にニーズが高まっている。また最近では、仮想システムへの移行・構築だけでなく、運用や保守サービスの面でも根強いニーズがある。仮想化したはいいものの、物理システムとは異なる運用ノウハウが求められ、運用・保守が難しいと感じるユーザー企業が、ITベンダーに助けを求めているわけだ。

 新たなパラダイムシフトを引き起こすといわれ続けてきたクラウド、そして仮想化。2010年、いよいよ本格的に普及し、ITベンダーにとってV字回復を果たすためのチャンスをもたらす存在へと進化しそうだ。