主要SIerのクラウド型サービスビジネスが急速に立ち上がってきた。サービスメニューや売り方がより具体的になり、商談がまとめやすくなったことがその背景にはある。
危機後、二度目の春
ビジネスモデルを着々と変革
パブリック・クラウド
バーチャルプライベート・クラウド
コミュニティ・クラウド
プライベート・クラウド
BizCloud(NTTデータ)
SaaSスタートアップ@absonne(NSSOL)
たよれーるマネージドネットワークサービス(大塚商会)
アセット組み替えサービス(CTC)
中堅・中小企業向けERP/SCM/CRM
オンラインストレージ
経済危機が表面化したリーマン・ショック発生から二度目の春。有力SIerは、着々とビジネスモデルを変化させている。その端的な動きが、クラウド型サービスの充実だ。2年前は漠然とした概念でしかなかったクラウドのサービスメニューを整備し、売り上げや利益の計画を具体的に立案するまで完成度が高まっている。本特集では、各社のクラウド型サービスビジネスのメニューをレポートする。
ハイブリッドで強み生かす ひと口にクラウド型サービスといっても、その方式は複数ある。クラウドの概念を広く普及させたのは、Amazon EC2やGoogle、Salesforce、Azureなどのパブリック・クラウド方式だ。不特定多数の利用者でコンピュータのリソースを共有することから、リソースを必要なときに必要なだけ、安価で得られることがヒットの要因となった。
だが、企業や団体の業務システムの構築をビジネスの柱とすることの多いSIerにとって、インフラビジネスに近いパブリック・クラウドは自らの業種・業務ノウハウを生かしにくい。
そこで、有力SIerがこぞって進出し始めたのが「プライベート・クラウド」や「バーチャルプライベート・クラウド」「コミュニティ・クラウド」と呼ばれる方式である。
プライベート・クラウドとは、ユーザー企業が自らクラウド設備を所有する方式であり、パブリック・クラウドの対極に位置する。
プライベート・クラウドは、SIerにとってはクラウド設備を所有するリスクを負わなくて済む。しかし、これではクラウドの特徴である「顧客がIT資産を所有しないメリット」や、「共同利用によるコスト削減効果」が得にくい。この課題を解決するのが、仮想的にユーザー個別のクラウドを構築するバーチャルプライベート・クラウドや、特定業界にターゲットを絞ったコミュニティ・クラウド方式である。パブリック・クラウドほどにはインフラに特化せず、かといってユーザーがIT資産を所有しないメリットや、共同で利用することによるコスト削減メリットも失わない、いわば“ハイブリッド型のクラウド”を打ち出すことで、SIerの強みを生かそうという戦略だ。
クラウドと業務アプリの相性 業務アプリケーションのタイプ別に、クラウドビジネスの可能性を探る動きも活発化している。日本IBMでは、業務アプリケーション別にクラウドへの適性を分析。最も適しているのは、大方の予想どおり、グループウェアなどコラボレーション系で、クラウドに最も不適なのは大企業のERP(統合基幹業務システム)だ。グループウェアや営業支援、CRM(顧客情報管理)系のアプリケーションは、Salesforceの躍進でクラウドへの適性が証明されており、確実なトランザクション処理が求められる基幹系アプリは、そもそもインターネットとの相性がよくない。
だが、ここで注目すべきは、中堅・中小企業(SMB)のERPやSCM(サプライチェーン管理)、デスクトップの仮想化などのクライアントパソコン周りが、意外にクラウドへの適性を示している点である。日本IBMの分析によれば、SMBのERP、SCMやデスクトップ仮想化は、ITベンダーなどが所有する外部クラウドを活用する効用は比較的大きいものの、クラウドへ移行するハードルも高いという結果が現れている。
先に挙げたクラウドの方式別と、業種アプリケーションの適性別を重ね合わせると、SIerが狙うべき領域がぼんやりと見えてくる。つまり、クラウド化の効用が大きく、かつ容易にできるグループウェアなどの情報系は、SIerが苦手とするパブリック・クラウド方式でカバーが可能ということだ。つまり、SIerの強みを生かしにくい領域であることがうかがえる。
一方で、クラウドを活用する効用は比較的大きいものの、クラウド化があまり容易ではないSMB向けERPやSCM、デスクトップ仮想化などは、ある程度のカスタマイズが可能なバーチャルプライベート・クラウドやコミュニティ・クラウドで対応できる余地が大きいとみることができる。
また、クラウド化が困難で、ITベンダーなどが所有する外部クラウドを活用する効用も小さいとされる大企業のERP系のアプリケーションは、ユーザー企業自身が所有するプライベート・クラウドを適用するのが妥当な選択だろう。
人材開発に100億円を投じる  |
| 日本IBM 吉崎敏文執行役員 |
日本IBMでは、2010年1月にクラウド事業を統括する組織を新設。これまで社内に分散していたクラウド関連事業をまとめ、「(売り上げや利益の具体的な)数値目標をもって事業を推進する」(吉崎敏文・クラウド・コンピューティング事業執行役員)と、既存事業に付随したものではなく、クラウド事業として収益を追求する姿勢を明確にする。同社では、今年3月までに社員1000人を対象に行っているクラウド関連の研修を修了させるとともに、クラウド事業を拡大・推進する人材開発に向こう5年間で100億円を投じる計画だ。
次ページ以降では、有力SIerのより具体的な取り組みや売り方を検証する。
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