中古PC市場が安定成長を続けている。ソフトウェアライセンスの問題やセキュリティの不備など、マイナスイメージがつきまとう中古PCだが、ここ数年で改善されてきた。コンシューマ向けからビジネス向けにユーザーのすそ野を広げることができるか。中古PCの販売にかかわる業界の動きを追った。
中古PC市場の成長は本物か 中古情報機器協会(RITEA)によると、2009年度の中古PCの販売台数は、前年度比110%増の192万2000台となった。調査を開始した2006年度以降、右肩上がりの成長を遂げてきており、国内で流通するPCの1割以上を占めるまでになっている。 家電量販店の店頭に中古PCが並ぶ光景は珍しいものではなくなった。SOHOや個人事業主のユーザーにとっては、新品と並ぶ有力な選択肢だ。一方で、中古PCの販売事業者にとっては、素直に喜べない事態が起きている。
晴れのち雨の業界模様 販売事業者の淘汰が始まる 販売台数全体の動きをみると、右肩上がりの成長が続く中古PC市場だが、楽観視できる状況にはない。販売事業者は決して甘い見通しをもっているわけではなく、むしろ市場を取り巻く環境の変化に対応していかなければ生き残れないと、危機感を抱いている。
NECパーソナルプロダクツは、2009年度の中古(再生)PC販売台数が3万8300台で、08年度実績の5万2800台に比べて1万4500台も落ち込んだ。その背景には、「新品の低価格化に伴って再生PCの低価格化が進んでいるので、事業として採算が取れるようにするために、意図的に販売を調整した」(清水康雄・PC事業本部カスタマーサービス本部リフレッシュPC営業部長)という事情があった。新品の低価格化だけではない。これまで多くの販売店は、中古の低価格PCを新興国向けに輸出することで利益を出してきた。しかし、円高の進行が輸出の阻害要因となり、そのため国内で中古PCの供給過剰となって、破格の値段で売り出す値下げ合戦が起きている。
アンカーネットワークサービス第3事業部ネット販売チームの大内義孝氏は「例えば、新品時に5万円だったPCは、2万5000円の値段をつけて中古PCとして販売することができていた。それが今は1万円くらいまで値段を下げないと売れなくなっている」と危惧する。
販売事業者の主な調達先となってきたリース業界を取り巻く状況が大きく変わっていることも、中古PC市場に影を落としている。リース利用の最大のメリットは、リース料(リース資産の減価償却費)の全額をユーザーが経費として損金処理できる点にあった。しかし、2008年4月、リース会計基準が改正されたことで状況が一変した。リース取引には、一般に普及しているファイナンス・リースと、オペレーティング・リース(リース物件のリース期間終了後の中古価値を評価し、その価値をリース料算定の際に残存価値として設定するやり方)に大別される。このうち、ファイナンス・リースについては、従来、貸借対照表(バランスシート)に記載しないオフバランス(賃貸借処理)が認められていたが、新リース会計基準ではオンバランス(売買処理)が原則となった。
つまり、ほとんどのリース取引が売買と同じとみなされることになったのだ。
リース会計基準の変更によって、中古PC業界が受けた影響は大きかった。リース企業からの調達に大きな期待をもてない現在、エスエヌシーの川村篤雄専務取締役は「下取り力のないディーラーはこれから厳しくなる」と、見通しを語る。川上キカイの伊藤敏夫・事業企画推進室室長は、「今後4~5年で淘汰が始まる。もっと早いかもしれない」とみている。
一筋縄ではいかない法人市場 これまで中古PCの法人需要は、ほとんどが一部の中小企業やSOHO、個人事業主などに限られていた。一般企業の資産物件を調達先として広げていくのはもちろん、ユーザーのすそ野を広げていくことも不可欠となる。なかでも中古PC需要のトリガーとなりそうな要素として、(1)2010年10月22日、メーカーが「Windows XP」へのダウングレード権を行使したPCの出荷が終了、(2)シンクライアント化の動き、(3)IT投資抑制が挙げられる。
中古PCならではの特性生かす 中古PCの販売事業者は、10月23日以後も「Windows XP」搭載の中古PCを販売できるため、業務アプリケーションの互換性などの問題を抱えて「Windows 7」への移行をためらうユーザー企業からの需要を見込んでいる。いわゆる“Windows XP特需”である。(11月8日号3面で既報)。
先に挙げた三つの「トリガー要素」のなかのシンクライアントは、中古PCと親和性が高い。1万円程度の中古パソコンを購入してHDDを取り外せば、シンクライアント端末として利用することができる。新品PCに比べてイニシャルコストを抑えられるうえ、インストール・アップデートが不要。しかも、クライアント端末は高スペックを必要としないので、期待がもてそうだ。
アンカーネットワークサービスは、シンクライアントに商機を見出している販売事業者の1社だ。第1事業部エコトモチームの赤峰旭チームリーダーは「製造業のユーザーが200台以上の中古PCをシンクライアントで導入する事例が出始めている。月間500~700台をシンクライアント用途に出荷している」と現状を語る。2009年から増加傾向にあるという。法人市場の開拓に本腰を入れ始めた同社の姿勢がうかがえる。
マイクロソフトの中塚三貴・OEM統括本部アカウントエグゼクティブは「ユーザー企業がIT投資削減のためにPC資産を売却し、PCの販売事業者が下取りする動きが活発だ」と語る。RITEAの小澤昇専務理事・事務局長は「全国展開している有力SIerでも入り込めないような地方は疲弊が激しく、地元企業は少しでもIT投資を削減したいと考えており、中古PCがそのための有力な選択肢の一つになっている」のだという。
厳しい戦いを強いられるとの見方も 販売事業者は、“Windows XP特需”に大きな期待を寄せる。だが、限定的な需要にとどまる可能性がある。例えば、ダイワボウ情報システム(DIS)は、「Windows 7」の本格導入の開始に伴うPCの売り上げ拡大を見込んでいる。「Windows 7」と並んで、デスクトップの仮想化や中小規模のサーバー仮想化、サーバー・ストレージ統合の案件増加を見込む。強力な販売店支援体制を敷くDISや、ソリューション提供で売り込みをかけるSIerとの競争は厳しいものになるだろう。
シンクライアント需要はどうだろうか。日本IBMのグローバル・ファイナンシングリユース製品事業部第二営業部の原寛世部長は、法人市場について「仮想デスクトップ環境下でシンクライアント需要が今後出てくるだろう。その際に使用する端末はiPadなど多様化していて、中古PCはそのなかの選択肢の一つになる。需要は顕在化するだろうが、現在のところ当社は取り組む予定がない」と慎重な見方をしている。
「中古PCとシンクライアントは親和性が高いと思うが、需要の兆しはまったくない」という厳しい声もある。その背景をエスエヌシーの川村専務はこうみる。「数多くのビジネス中古PCが流通しているが、SIerがプレーヤーとして存在していないことが致命的だ」。調達のノウハウがないということや中古PCを購入することのリスクを考えて、SIerが及び腰になっているのだという。
事業体制の再構築を急げ 法人市場の継続的な成長には、中小企業への提案活動を強化するのはもちろんだが、システムインテグレータ(SIer)との協業推進や主なPC調達先であるリース会社との関係強化などが当面の課題といえる。IT資産管理やサーバーのリプレース、仮想化製品・サービスのほかサポートなどを含めたソリューション提供が必要となってくるはずだ。
IT資産管理という点では、アンカーネットワークサービスがリース企業と協業して、導入時のリース・レンタルからキッティングなどの作業代行、資産管理やリースアップ時の処理まで手がけようとしている。
ソリューション提供という観点からは、話が変わるが、こんな意見もある。これまで販売事業者は、中古PCの調達からデータ消去、販売のほか、リサイクルなどまで、一貫して手がけてきた。川上キカイの伊藤敏夫室長は、こうした事業体制が事業者ごとに、例えば、データ消去だけを手がけるといった具合に細分化されるとみている。再生ラインへの投資は最小限にして、得意分野に特化するというわけだ。企業体力の乏しい販売事業者は、事業を縮小しつつも、SIerや販売事業者との協業で生き残りを図るという手を模索することになるかもしれない。
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