東日本大震災では、被災地となった東北地域の多くの企業が津波によって重要文書を失った。そのほとんどが紙文書であったため、完全消失を免れなかった。そして、そのために事業継続が危うくなる企業も続出した。企業に限らず、病院や地方自治体でも紙文書を喪失したために、安否確認や被災者の診療に多大な悪影響を及ぼした。震災以前から、内部統制強化や業務効率化などに向けて電子化のニーズは高まっていたが、このたびの大震災はこの動きを後押しするかたちとなっている。この特集では、ユーザーはどんな電子化を求めており、ベンダーはそのニーズにどう応えるべきかを検証した。
電子化・保存は喫緊の課題 企業内の情報資産には「人間系」と「情報システム」で管理された情報が存在する。後者は企業経営上の構造化データであり、会計、販売、顧客、人事・給与など基幹システムに蓄積されている。東日本大震災を契機に「電子化」が加速し始めているのは、企業内データの8割を占める後者だ。
従来は基幹系をシステムインテグレータ(SIer)がシステムを構築し、人間系のデータ管理関係の機器については複合機やプリンタを販売する事務機ディーラーが提案していた。だが、ここ数年、多くの企業では、両者の情報を統合し、業務の記録を効率よく取得して社員で共有し、情報資産の付加価値を高める動きが活発になってきた。そこへ天災が起きたことにより、SIerには、ドキュメント関係の複合機やスキャナなどの機器をも駆使して「人間系」の情報を管理するシステムのノウハウが求められてきているのだ。
今回の大震災では、東北地域の沿岸部にある多くの企業・団体で、津波によって紙文書が失われた。「情報システム」に保存した重要データですら、システムごと海水に浸かり、滅失してしまったケースが散見された。
週刊BCNの5月30日号の「視点」欄で、サイバー大学の前川徹教授が指摘しているように、岩手県大槌町や宮城県南三陸町などでは、住民の安否確認に住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を活用した。
住民票を喪失した被災自治体は、国が住基ネットの取り扱いで“超法規的”な通達を行って、はじめて安否確認作業ができたのだ。医療機関の電子化で実績のある岐阜県大垣市に本社を置くエヌ・エス・エム(NSM)には、「津波の被害を受けた沿岸部の病院から、問い合わせがある」(青山尚憲副社長)といい、震災後の復旧・復興に向けて電子化を念頭に置いたシステムを見直す機運が現れてきているという。
一般企業を含めて、事業継続や災害対策の一環として紙文書を電子化・保存するニーズは高まっている。被災地域以外では、これに加えて電子ドキュメントを含め経営効率を高める目的で、クラウドコンピューティングなどを駆使した文書管理システムへの需要も高まってきそうだ。
Why?「電子化」
文書を即座に取り出せる
システムづくり
国内プリンタメーカーなどが加盟するビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の「ドキュメントマネージメントシステム部会」の調査によると、経営に寄与する業務基盤となる新たに必要なシステムとして、約6割の経営者が「文書管理システム」を挙げている。調査の実施は今回の大震災が起きる前だが、この結果からは、すでに構造化データ・非構造化データを統合して社内で情報(紙文書を含めたデータ)を共有・活用するニーズが高まっていたという動きがみてとれる。
個人情報保護法や内部統制強化の動きと並行して、企業競争力の強化という側面でオフィス内を電子化し、効率化を追求する流れが生まれていた。この電子化の動きを今回の大震災が後押ししているという構図だ。
スキャナなどの機器を利用して紙文書や帳票類、名刺、提案資料などの電子化ソリューションを展開するコダックの西巻宏・ドキュメントイメージング営業本部長は、大震災後のイメージング市場をこう分析する。「イメージング市場は、プリンタ市場の10分の1程度の規模しかないが、震災を契機に情勢が変わった。これまでは、スキャナなどのイメージング機器への投資を抑制する傾向が企業の間で支配的だった。だが、クラウド・ストレージなどが企業内個人レベルで使われ始め、個人でスキャンして非構造化データなどを電子化する世界が生まれていたが、次のステップとして企業レベルで実現するニーズが出てきている」。
企業内の重要文書を社屋もろとも津波にさらわれ、事業継続ができずに倒産に追い込まれる姿を目にした国内企業の多くが、情報資産管理の重要性に気づいたと西巻本部長はみている。コダックが手がける案件で、電子化の流れが顕著なのは、20床以下のクリニックを含めた400床以下の医療機関という。「いままでは、院外にカルテなどの文書を保管することに二の足を踏んでいた医療機関が、現在は院外にデータを保管し、いざという時に備える傾向にある」と、西巻本部長は指摘する。
1995年の阪神・淡路大震災で神戸営業所が被災した富士ゼロックスは、その災害復旧活動から得た教訓をもとに、中堅・大企業向けの重要文書管理サービス「バイタル・レコード(組織の存続に必要不可欠な記録や文書)・マネジメント」を自社に適用して改善を加え、現在、これを外販している。当時、同社の神戸営業所は地震で建屋が半壊。契約書や顧客情報などを保管するキャビネット20台が取り出せず、「社員の安否確認を経た後、一段落して顧客のサポートなどいち早く復旧活動に移りたくても、契約書などの文書が取り出せなくてできなかった」(内田俊哉・レコードマネジメント営業グループ長)。現在の「バイタル・レコード・マネジメント」サービスは、事業継続に必要な重要文書を分類し、現場社員が複合機でスキャンして電子化・保存からQRコードを使った紙文書を倉庫に保管し、これを検索して利用・運用するまでを行っている。震災後は「いつ直下型地震が起きても不思議ではない東日本や東海の企業は、BCP(事業継続計画)を策定することに躍起。当社のサービスを希望する企業が増えた」(内田グループ長)という。
仮に、企業内の個人や部署レベルで紙文書を電子化して保存し、クラウド環境で取り出せるようになったとしても、保存の仕方が属人的で、必要な文書を必要な時に即取り出せない可能性は高い。文書管理を事業継続の一環として全社的に取り組むべき時期がきているといえそうだ。
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