首都圏・東日本の電力不安を受け、節電と事業継続に役立つITシステムへの需要が高まっている。主要SIerは、クラウドやシンクライアント、サーバー統合など、さまざまなITサービスを、節電と事業継続をキーワードとして再編。今夏の電力供給不足に備えて、ユーザー企業への提案活動に力を入れる。節電と事業継続は、多くの部分で相互補完の関係にあることから、両者の整合性を保った総合的なメニュー体系に仕上げることが求められる。(文/安藤章司)
figure 1 「市場動向」を読む
節電と事業継続に向けたIT投資に期待
情報サービス業界にとって、今夏の節電に向けたITシステムの更改と手直しは、業績を底支えする重要な意味をもつ。調査会社のIDC Japanは、国内IT市場の2011年の成長率は前年比4.5%減の12兆165億円に落ち込むと予測。リーマン・ショックから3年目となる2011年は、本来0.6%増のプラス成長を予測していたが、東日本大震災の発生に伴う企業や消費者心理の冷え込みが懸念されることから、一転してマイナス成長の予測となった。
その一方で、福島第一原子力発電所の事故に端を発する電力供給不足への対応や、今後、原発の安全対策見直しが進むまでの間、電力供給が全国的に不安定になることも予想される。こうしたなか、節電や事業継続プラン(BCP)に関するIT投資は、情報サービス業界にとって大きなビジネスチャンスとなる。国内IT市場全体の落ち込み幅を少しでも軽くし、「業績を底支えする貴重な案件」(大手SIer幹部)と位置づける向きが多い。
国内IT市場規模の推移
figure 2 「主要商材」を読む
相互補完の関係にある節電と事業継続
節電と事業継続に向けた取り組みの多くは、相互補完の関係にある。例えば、西日本地区のデータセンター(DC)を活用したり、シンクライアントやクラウドサービスを活用した在宅・サテライトオフィス勤務の支援システムは、節電に役立つだけでなく、事業継続にも有効な取り組みである。DCはITシステムの中核的施設であり、電力を大量に消費する。電力供給が比較的安定している西日本のDC活用は、首都圏の節電に貢献するとともに、重要なデータを首都圏と西日本の両方で保有することでリスク分散=事業継続の機能も果たす。
クラウドの主要技術要素である仮想化は、サーバー統合にも有効だ。複数台あるサーバーを仮想化して、処理能力が高い少数のサーバーに統合すれば、サーバーの物理的な稼働台数を減らして節電につなげることができる。並行して、消費電力の大きいデスクトップPCからノートPCへの切り替えも促進するなど、センター系、端末系の両方での商談が活発化している。
IT分野における節電と事業継続に向けた取り組み
figure 3 「主要プレーヤー」を読む
省エネやパンデミック向け商材を応用
主要SIerは、節電と事業継続に対応するさまざまな商品・サービスを揃えている。多くは京都議定書に基づく温室効果ガス抑制に向けたチーム・マイナス6%(現チャレンジ25キャンペーン)や、インフルエンザなどパンデミック(流行病)の発生で会社に出勤できない事態に陥ったときの対策として考案されたものだ。省エネやパンデミック対策で効果をあげてきた商材群が、今回の東日本大震災後の節電や事業継続にも応用できる。
大手SIerは、省エネや事業継続に関するひと通りの商材を取りそろえているが、そのなかでも各社“イチ押し”の商材を下図に列挙した。
日立情報システムズや富士ソフトは、持ち前のDCネットワークを生かしてユーザー企業のセンター系システムの節電や事業継続に力を入れる。富士ソフトは、自社DCとGoogleやMicrosoft、Amazon EC2などのパブリッククラウドとの連携によるコストパフォーマンスや利便性の向上に取り組む。JBCCホールディングスやキヤノンマーケティングジャパンは、得意領域である中堅・中小企業に向けた端末系にフォーカスし、日立ソリューションズは、クラウド基盤を活用した在宅勤務支援や電子黒板を活用した遠隔会議システムをイチ押しする。
主要SIerのイチ押し節電&事業継続(BCP)商材
figure 4 「時系列メニュー」を読む
フェーズ別のメニューで災害に備える
東日本大震災でも明らかになったように、災害は刻一刻と状況が変わっていく。とりわけ事業継続に関する商材は、フェーズ別に分けてメニューをつくり、ユーザー企業に分かりやすく提案していくことが受注に結びつく。例えば、災害の初期フェーズでは、携帯電話や固定電話がつながりにくくなる。このためメールやチャットといった通話に頼らない連絡手段の確保を、常日頃から心がけておく必要がある。ノートPCやスマートデバイスなど内蔵電池で長時間駆動し、ネットに接続できる端末を積極的に活用するのも有効だ。
第二ステップは、災害対策本部を立ち上げるなど組織的な対応策を打ち出すフェーズだ。交通網が寸断されたり、パンデミックが起きたりしたケースでは、人の移動が難しくなるので、ウェブ会議やテレビ会議、在宅勤務や小規模なサテライトオフィスが組織的行動に欠かせないインフラとなる。最終段階の復興支援から通常業務に移るフェーズでは、バックアップデータの復元や、次の災害に備えるための取り組みが求められる。今回の大震災ではクラウドサービスが災害復旧に役立つことが実証されており、従来の客先設置型のサーバー/クライアント方式から、全国・世界中のDCを活用したクラウドサービスへの移行が、今後はより進むとみられている。
省電力と事業継続(BCP)の時系列別ITサービスメニュー